傾ける(読み)カタムケル

デジタル大辞泉 「傾ける」の意味・読み・例文・類語

かた‐む・ける【傾ける】

[動カ下一][文]かたむ・く[カ下二]《「かたぶける」の音変化。「片向ける」の意》
物を斜めにする。傾くようにする。かしげる。「首を―・ける」「傘を―・ける」
《杯を斜めにして中の物を飲むところから》酒を飲む。「大杯を―・ける」
存在を危うくさせる。衰えさせる。滅ぼす。「道楽から身代を―・ける」「国を―・ける」
力や注意などをいちずにその方へ向ける。心をある物事に集中させる。「耳を―・ける」「愛情を―・ける」「蘊蓄うんちくを―・ける」
非難する。けなす。
たと卿相げいしゃうの位に昇るといふとも誰か―・け申すべき」〈保元・中〉
[類語]傾げる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「傾ける」の意味・読み・例文・類語

かた‐ぶ・ける【傾】

  1. 〘 他動詞 カ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]かたぶ・く 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙
  2. 斜めになるようにする。一方にかたむくようにする。
    1. [初出の実例]「からかさをさしたるに、風のいたう吹きて横さまに雪を吹きかくれば、すこしかたぶけてあゆみ来るに」(出典:枕草子(10C終)二四七)
    2. 「しきりに首を左右に傾(カタブ)ける」(出典文鳥(1908)〈夏目漱石〉)
  3. 滅亡させる。衰えさせる。
    1. [初出の実例]「大津皇子、皇太子を謀反(カタフケ)むとす」(出典:日本書紀(720)朱鳥元年九月(北野本訓))
    2. 「みかどかたぶけたてまつらむとさわぎ侍るめる」(出典:宇津保物語(970‐999頃)忠こそ)
  4. 酒など飲むとき、器をかしがせる。また、器の中の酒や茶などを飲む。
    1. [初出の実例]「今様を四五反(へん)うたひすましたりければ、其時坏をかたぶけらる」(出典:平家物語(13C前)一〇)
  5. ( 中のものを出すのに器をかしがせることから ) 中のものをすっかり出す。
    1. [初出の実例]「大海の水も傾(カタフケ)竭すべからぬがごとし」(出典:石山寺本大智度論天安二年点(858))
    2. 「或は戒律をまもりて鉢の油をかたふけず」(出典:観智院本三宝絵(984)下)
  6. 非難する。けなす。
    1. [初出の実例]「この大将なども、あまりひきたがへたる御ことなりとかたぶけ侍るめるを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)乙女)
  7. ある物事に、力や精神などを集中させる。
    1. [初出の実例]「なにとか、なにとかと、耳をかたぶけて問ふに」(出典:枕草子(10C終)九〇)
    2. 「あらそって君がため心を傾ぶけ操(みさを)を励まし」(出典:二日物語(1892‐1901)〈幸田露伴〉此一日)
  8. こちらの思う通りに従わせる。
    1. [初出の実例]「家請(いゑうけ)機嫌を取り、小半酒(こなからさけ)に両隣をかたぶけ」(出典:浮世草子・好色一代男(1682)三)

傾けるの補助注記

中世以後、これから転じた「かたむける」という形が併用され、「日葡辞書」には、「かたぶける」と書いても、話し言葉としては「かたむける」と発音されるとの説明が付けられている。現代では「かたむける」が優勢である。


かた‐む・ける【傾】

  1. 〘 他動詞 カ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]かたむ・く 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙 ( 「かたぶける」の変化した語 )
  2. 斜めになるようにする。一方にかしがせる。
    1. [初出の実例]「西行法師のふじ見笠か、東坡居士の雪見笠か。〈略〉霰にさそひ、時雨にかたむけ」(出典:俳諧・和漢文操(1723)七)
  3. 滅亡させる。衰えさせる。
    1. [初出の実例]「天魔仏法を傾(カタム)けんとすれば鬼王として対治し給ふ」(出典:発心集(1216頃か)八)
  4. ( 酒などを飲むとき、器をかしがせるところから ) 酒などを飲む。
    1. [初出の実例]「さらば一盃かたむけんと思ふて」(出典:中華若木詩抄(1520頃)中)
  5. ( 中のものを出すのに器をかしがせるところから ) 中のものをすっかり出す。
    1. [初出の実例]「腥(なまぐさ)いものを面(ま)のあたり咽喉(のど)の奥から金盥(かなだらひ)の中に傾(カタム)けた事もあった」(出典:思ひ出す事など(1910‐11)〈夏目漱石〉八)
  6. 非難する。けなす。
    1. [初出の実例]「今度の譲位いつしかなりと、誰かかたむけ申べき」(出典:平家物語(13C前)四)
  7. ある物事に、力や精神などを集中させる。
    1. [初出の実例]「ココロヲ katamukeru(カタムケル)」(出典:和英語林集成初版)(1867))
    2. 「彼等は是非共学者文学者の云ふ事に耳を傾(カタム)けねばならぬ時期がくる」(出典:野分(1907)〈夏目漱石〉一一)

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