( 1 )現在、一般に「身代」の表記が用いられているが、この表記の定着は必ずしも古いものではなく、近世には「身袋」「身体」などの表記も見られる。
( 2 )語源とされている「進退」の字音は本来シンタイであるが、中世には連濁によって「シンダイ」と転じる。意味も、本来の進むことと退くこと、また立ち居振舞、自分の身の処し方などから、自分の思うままに土地や人間を扱うの意が派生し、そこから財産の意をも表わすようになる。表記としては、字義から身に属する財産を連想させる「身袋」「身体」「身代」などが使用されるようになったものか。
( 3 )「和英語林集成(初版)」以下明治時代の辞書類では、見出しに「身代」の字を当てるものが多く、これが現在に続いている。
〈みのしろ〉ともいう。鎌倉時代,借銭や借米の質となり,年貢や公事の未進の代償となった人をいう。身代として流されたり,とられたりした人間は下人(げにん)となり代価分だけ一定期間使役されたが,ときには相伝の下人と同様に一生使役されることもあった。いわば債務奴隷となるのである。その源流を尋ねると,律令制下において出挙(すいこ)の未進に際し,人身の労役によって返済させたことがあげられる。また平安時代には官物年貢の未進があると,〈召籠め〉といって人身が拘束されたことがある。この二つの慣習が相互に影響しあい,貸借や年貢の支払において人身をもってこれにあてる慣習が生じたのであろう。そうした慣習を促したのは,下人労働力への需要と,人身を抵当にいれても借銭・借米をしなければならないという飢饉や戦乱等の社会不安とであった。こうして人身が質や代価として扱われると,地域ごとに相場が生まれ,それは飢饉や戦乱がおきると上下した。また労働力の需要にあわせて,人身売買も盛行してくる。それにつれて身代は人身売買の代金としての意味をもつようになった。次に江戸時代になると身代の語は〈しんだい〉と呼んで〈みのしろ〉とは区別されて使われる場合が多く,その〈しんだい〉は身に帯びる財産をさし,鎌倉時代に使われた所帯の語に近い。鎌倉時代においては所帯が無いときに身代をもって代価にあてることが行われたのであるが,この身代が所帯をも包含して成立したのが江戸時代の身代といえるであろう。現在使われている身代は,〈しんだい〉と読めば江戸時代的な用法を意味し,〈みのしろ〉と読めば中世以来の人質にかかわる用法となる。
→身代(みのしろ)
執筆者:五味 文彦
(1)債務の担保として質物とされた人。たとえば,1253年(建長5)の鎌倉幕府の追加法は,〈土民の身代を取り流す事〉として,土民(百姓)が年貢公事を拒否するとき,これを強制するため〈身代〉をとることは定法であるが,わずかの未進でこの身代(人質)を流すことを禁じている。(2)人身売買の代価をいう。御伽草子や謡曲など室町時代の文学には人売買に関する哀話が少なくないが,これらのなかに身を売った代金として〈身代〉の語がみられる。中世から近世にかけて,人の永代売や年季売の代価,あるいは人を質置にしたときの借金が身代と呼ばれた。江戸幕府は人の永代売を禁止し,年季売や質置は年季奉公に形を変えてくるが,遊女や飯盛女などの年季奉公は人身売買の実質をとどめており,奉公のさいの前渡し給金(前借金)はふつう〈身代金〉と呼ばれた。江戸幕府は,身代金に関する訴訟は本公事(ほんくじ)とし,主人の側の利益を保護した。
→人身売買
執筆者:牧 英正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…鎌倉時代,借銭や借米の質となり,年貢や公事の未進の代償となった人をいう。身代として流されたり,とられたりした人間は下人(げにん)となり代価分だけ一定期間使役されたが,ときには相伝の下人と同様に一生使役されることもあった。いわば債務奴隷となるのである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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