洒落本。1冊。梅暮里谷峨(うめぼりこくが)作。1798年(寛政10)刊。遊里の遊び2種を対照的に描く。〈夏の床〉では,浮気でうぬぼれの色男が結局遊女に愛想づかしをされることを,〈冬の床〉では,嫌われていた醜い中年男の誠実がついに女の心をとらえる次第を,それぞれ描く。山東京伝の《傾城買四十八手》の描写方法を踏襲しているが,両章を通じて誠実な真情の尊さを強調するところに意図があり,〈冬の床〉の主人公文里(ぶんり)には,洒落本における新しい通人の造型が見られる。やがて二編《廓(さと)の癖》(1799),三編《宵の程》(1800)と継がれて長編化し,人情本にいたる道をひらくいとぐちともなった。
執筆者:水野 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
洒落本(しゃれぼん)。1冊。梅暮里谷峨(うめぼりこくが)著。雪華画。1798年(寛政10)刊。書名は自序に「遊冶郎(いろをとこ)の乖功(ゆきすぎ)は醜夫(ぶをとこ)の温柔(うちば)には猶(なほ)及ばざるがごとし」とあり、遊里における行きすぎと誠実の二筋を描く意である。2部に分かれ、「夏の床」はきざでずうずうしい色男が結局遊女に振られ、「冬の床」は中年の醜男文里(ぶおとこぶんり)が、3年越しに嫌い抜かれていたなじみの遊女一重(ひとえ)の心を、その誠実さからつかんで深い仲となるというもので、通(つう)を描く従来の洒落本と違って、遊里における真情の勝利を描いたものとして、以後の洒落本の作風を決定した作品である。「夏の床」の内容は、後編『廓(さと)の癖(くせ)』(1799)、三編『宵(よい)の程(ほど)』(1800)に至って完結している。
[神保五彌]
『水野稔校注『日本古典文学大系59 黄表紙・洒落本集』(1958・岩波書店)』▽『中野三敏他校注『日本古典文学全集47 洒落本・滑稽本・人情本』(1971・小学館)』
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