中国、清(しん)代の小説。作者は呉敬梓(ごけいし)。55回。原本は50回であったともいうが伝わらない。現存最古の刊本は1803年(嘉慶8)刊の五十六回本。光緒(こうしょ)年間(1875~1908)に60回の石印本があるが、56回以後は後人が増補したもの。『紅楼夢(こうろうむ)』とともに清代小説の代表作とされる。作者は名家の出身であるが遺産を蕩尽(とうじん)し、士人としては最低生活のなかで生涯を終えた。その体験から、科挙の試験合格のみを目的とする士人の生活の裏面に及ぶ鋭い批判の眼(め)を通して、富と権力への欲望、事大主義、礼教の虚偽などを暴く一方、彼らと交渉をもつ商人、僧侶(そうりょ)、俳優、職人、農民などの生態にも眼を配り、腐敗した上層階級と貧しいが健康な庶民との対比により、当時の社会の構造を洗練された筆致でリアルに描き出している。作品には一貫した主人公はなく、連鎖的に人物を登場させた短編の集積という構成のために物語の展開という面でのおもしろさに欠けるが、士人の各種の類型をみることができる。とくに前半は、時代の犠牲者でありながら自覚せず科挙に振り回される人物、後半は、それに背を向けて個人の自由を愛する人物に関心が向けられている。作中人物にはモデルがあったようで、作者自身と思われる人物も登場する。士人の愛読者があったことは張文虎(ちょうぶんこ)(号は天目山樵(てんもくさんしょう))の評などからうかがわれる。清末に輩出した『官場現形記(かんじょうげんけいき)』『二十年目覩之怪現状(もくとのかいげんじょう)』などは、この作品の影響を受けたとされる。
[尾上兼英]
『稲田孝訳『中国古典文学大系43 儒林外史』(1968・平凡社)』
中国,清代の白話長編小説。作者の呉敬梓(ごけいし)(1701-54)は字は文木で,終生官途につけず落魄の生涯を送った人。初版は1770年代(乾隆35-44)刊と推定される金兆燕刻本だが,現存する最古の刊本は1803年(嘉慶8)の臥閑草堂本56回である。一貫した主人公はおらず,エピソードを数珠つなぎにした〈連環体〉式の構成であるため,物語の自己完結性や面白さを失わせている。この構成は,安易なるがゆえに,清末に多くの模倣作を生んだ。《官場現形記》はその一つである。登場人物の多くは,科挙試にあくせくする下級知識人であり,作者はかれらの愚かさや偽善ぶりなどに嘲笑を浴びせることによって,体制批判を果たしているように見えるが,実のところ脱俗を気どった体制擁護にすぎない。しかし,魯迅が《中国小説史略》において本書を〈すぐれた風刺小説〉と評して以来,過大な評価があとを絶たず,《紅楼夢》と並ぶ清代の二大小説とされている。
執筆者:中野 美代子
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清代の長編小説。作者は呉敬梓(ごけいし)。18世紀中頃成立。科挙制度に対する不満を風刺し,官吏学者の腐敗を暴露。『紅楼夢』(こうろうむ)と並ぶ清の口語小説の傑作である。
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…元曲《西廂記》の主人公は科挙を目ざして仏寺に勉学中の才子であり,南曲《琵琶記》の主人公は貧苦と闘いながら状元で及第した篤学の青年である。清代の小説《儒林外史》は科挙受験の描写から始まり,科挙を背景として成立した文人官僚社会の弊風を風刺する。このような純文学以外でも,唐・宋以降の歴史,伝記,政治論などの文章は,科挙の制度を知っていなければ理解できぬものが多い。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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