江戸時代後期の長編合巻(ごうかん)。初編~5編美図垣笑顔(みずかきえがお)、6編~11編一筆庵(いっぴつあん)主人、12編~39編柳下亭種員(りゅうかていたねかず)、40編~43編柳水亭種清(たねきよ)作。挿絵は歌川国貞(くにさだ)・同国輝(くにてる)・同国盛(くにもり)・2世歌川国貞・歌川国芳(くによし)・同芳房(よしふさ)・同芳幾(よしいく)が描く。1839年(天保10)から68年(明治1)まで続刊。中国、宋(そう)の沈俶撰(しんしゅくせん)の説話集『諧史(かいし)』の盗賊「我来也(がらいや)」を感和亭鬼武(かんわていおにたけ)が読本(よみほん)『自来也説話(じらいやものがたり)』に翻案、これをさらに脚色長編化した。内容は、九州豪族の遺児尾形周馬(おがたしゅうま)が越後(えちご)妙香山の仙人から蝦蟇(がま)の妖術(ようじゅつ)を授かり、家再興のため各地に出没して悪人を懲らしめるのが主筋で、越中(えっちゅう)立山の蛞蝓(かつゆ)仙人からなめくじの妙術を得た美女綱手(つなで)を妻とし、悪賊大蛇丸(おろちまる)と蝦蟇・蛇・なめくじの三すくみの妖術乱闘を展開する。やがて管領(かんれい)家から宥文(ゆるしぶみ)を受け、悪人を伏滅する志を固め闘争と善行を積むが、大蛇丸は執念深く自雷也を襲い、自雷也は綱手とともに大毒薬液を浴びて失心する。自雷也はかつて命を救った弟子に助けられたところで未完。作者が何回もかわったためと、読者の続編への要求が強く無理に延ばしたため、趣向が一貫していないが、合巻中屈指の長編で、三虫三すくみの奇巧と変化は読者を魅了した。1852年(嘉永5)河竹新七(黙阿弥(もくあみ))は歌舞伎(かぶき)に脚色、8代目団十郎が自雷也を演じて大評判であった。またこのあと『女自来也』『絵本児雷也物語』などの模倣作を生み、大正期には映画になって児童大衆のアイドル的存在となった。
[小池正胤]
合巻。美図垣笑顔(みずかきえがお)・一筆庵主人・柳下亭種員(たねかず)・柳水亭種清の嗣編合著。歌川国貞(のち3世豊国と改名)・国輝・国盛・2世国貞・国芳・芳房・芳幾画。1839-68年(天保10-明治1)刊。全43編。5,6編のみ《緑林(みどりのはやし)豪傑譚》と改題。読本《自来也説話(じらいやものがたり)》に想を得,蝦蟇(がま)の妖術を使う義賊児雷也こと英傑尾形周馬寛行の勧善懲悪的活躍を主軸に,彼の大敵蛇精の妖賊大蛇丸(おろちまる),これを抑える児雷也の妻綱手の蛞蝓(なめくじ)の妙術,と三すくみの術闘趣向を盛り,鎌倉管領の争乱に絡ませて悪賊誅伏に運ぶ長編作で,未完。怪奇趣味濃厚な末期合巻の性格を具現する。河竹黙阿弥による《児雷也豪傑譚話》がある。
執筆者:鈴木 重三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
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