歌舞伎狂言。世話物。4幕。通称《縮屋新助》《美代吉殺し》。河竹黙阿弥作。1860年(万延1)7月江戸市村座初演。配役は縮売越後新助・小天狗正作を4世市川小団次,赤間源左衛門・念仏六兵衛を3世関三十郎,芸者美代吉を岩井粂三郎(のちの8世半四郎),穂積新三郎を河原崎権十郎(のちの9世市川団十郎),白滝の佐吉を13世市村羽左衛門(のちの5世尾上菊五郎)など。1807年(文化4),深川の八幡祭の際,人出の多さに永代橋が落ちた事件と,18年(文政1)本郷の呉服屋甚之助が深川芸者おみのを殺した事件をヒントに,小千谷から毎年江戸へ縮(ちぢみ)を売りにくる越後商人を小団次の柄にはめ,初演は世界を〈切られ与三〉にして脚色。小団次迫真の演技は無類で,とくに縮宿の場は生世話の味がすばらしく,黙阿弥初期の傑作とされる。縁切物の愛想づかしにおける美代吉のせりふの修辞も絶妙で,文学的香気が高い。この作を応用した3世河竹新七の《籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)》は内容的にはるかに粗く浅い。また直接これを新歌舞伎に改作した池田大伍の《名月八幡祭》もよく上演され,むしろ近年はこの作のほうに人気がある。しかし原作の〈噓から出た誠〉の諺どおりの新助の恋,美代吉の切ない愛想づかし,そして妖刀村正の魔力で逆上した新助が美代吉はじめ多くの人々を殺し,恋人が実妹と知り自滅するまでのキメこまやかなプロセスと歌舞伎味の濃さは本作が勝る。初世中村吉右衛門は新助を名演し,近代味を加えた。
執筆者:落合 清彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。四幕。河竹黙阿弥(もくあみ)作。通称「縮屋新助(ちぢみやしんすけ)」「美代吉(みよきち)殺し」。1860年(万延1)7月、江戸・市村座で4世市川小団次の新助、岩井粂三郎(くめさぶろう)(8世半四郎)の美代吉、河原崎権十郎(9世市川団十郎)の穂積(ほづみ)新三郎らにより初演。1807年(文化4)に深川八幡祭の人出で永代橋が墜落した事件と、本郷の呉服屋の芸者殺しを取り混ぜて脚色。深川八幡の祭礼の日、旅商人の縮屋新助は、深川芸者美代吉を博奕(ばくち)打ち赤間源左衛門の横恋慕から救い、その夜、永代橋の墜落で川へ落ちた美代吉をふたたび助ける。美代吉に恋慕した新助は船中で思いを打ち明け、彼女の恋人穂積新三郎のために必要な金を無理算段して調達する。しかし、美代吉は恩人の妹に義理をたてた新三郎から縁を切られ、やけ酒をあおって満座のなかで新助に愛想づかしをするので、悲憤の新助は妖刀(ようとう)村正で多くの人を殺傷し、洲崎(すさき)の土手で美代吉を殺す。結末は、美代吉を幼時に別れた妹と知った新助が自害するという因果噺(いんがばなし)になっているが、総体に下町の世相人情をリアルに写し、実直な田舎(いなか)者の新助が都会の美妓(びぎ)の魅力にひかれて破滅する過程を鋭く描いた生世話(きぜわ)物の傑作である。新助は初世中村吉右衛門(きちえもん)の当り役の一つであった。
[松井俊諭]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
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