日本以外の地、すなわち中国その他に略奪に行くことをバハンといい、また他国へ略奪に行く盗賊の船をバハンブネと称した。中国では「発販」「破幡」「破帆」「波発」「白波」「彭享」とバハンは発音され、日本では「番販」「奪販」「八幡」「謀叛」「婆波牟」、あるいは単に平仮名で「ばはん」があてられた。
バハンの語源については、八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)の信仰に由来するという説と、ポルトガルや中国などの外国語に由来するとの二つの説がある。前者は、江戸時代の1719年(享保4)香西成資(こうざいしげすけ)の『南海治乱記(なんかいちらんき)』が「わが国の賊船が八幡宮の幟(のぼり)を立て、洋中に出て、西蕃(せいばん)の貿易を侵して財産を奪った。その賊船を八幡船とよんだ」と記しているのが出所である。海上安全を祈願して八幡大菩薩の幟を立てたことは一般的な風習だが、そこにバハン船の語源を求めるのは賛成できない。外国語に由来しているとみたほうが妥当であろう。のち、バハンは海賊行為や略奪行為一般をさし、江戸時代には抜け荷もそうよぶようになった。
[宇田川武久]
『田中健夫著『倭寇』(教育社歴史新書)』▽『宇田川武久著『瀬戸内水軍』(教育社歴史新書)』
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