公害犯罪(読み)こうがいはんざい

改訂新版 世界大百科事典 「公害犯罪」の意味・わかりやすい解説

公害犯罪 (こうがいはんざい)

公害の防止を目的として制定された刑罰法規に違反する行為。理論上,過失,法人の刑事責任,因果関係等に問題を提起している。刑罰規定による公害の防止には種々の態様があり,その違反の性質も種々である。立法論として,どのような内容の違反行為を刑罰の対象とするのが適当かまた効果的かについて,見解は一致しない。現行法は,おおむね次のような態様の段階的規制を行っている。

 第1に,現実に人の生命・身体に被害が発生した時点で,被害を発生させた行為を処罰している。故意に基づく場合も考えられるが,業務上尽くすべき注意義務を怠った過失に基づく場合が一般である。刑法211条がこの業務上過失致死傷罪に対し,5年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金を定めている。水俣病事件,森永ヒ素ミルク中毒事件,カネミ油症事件では,この罪が適用された。第1の規制方法の特色として,(1)事後的規制である,(2)公害の種類は限定されない,(3)特定の個人が処罰され企業(法人)は処罰されない,(4)因果関係の立証が困難(各被害者ごとの原因行為と責任者の特定が必要)である,等があげられる。

 第2に,公衆の生命・身体に危険が生じた時点で,危険を発生させた行為を処罰している。1970年公布の,〈人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律〉(通称公害罪法)がこの方法を採る。それは,故意に工場または事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出して,公衆の生命・身体に危険を生じさせた者を,3年以下の懲役または300万円以下の罰金で処罰し(2条1項),業務上必要な注意を怠って,同様の排出をし同様の危険を生じさせた者を,2年以下の懲役・禁錮または200万円以下の罰金で処罰している(3条1項)。またそれぞれの結果的加重犯(以上の各2項)を規定し,両罰規定(4条),因果関係の推定規定(5条)を置いている。この法律の適用例は日本アエロジル事件などこれまでは数件で,検挙例も年数件程度である。その特色は,(1)第1の方法より早期に規制できる,(2)主として大気汚染水質汚濁に関する産業公害に限定され,また複合汚染への適用は難しい,(3)個人とともに企業も処罰される,(4)反証のない限り,危険の発生と原因となりうる行為の証明で足りる,等の点にある。

 第3に,有害物質(基準を超えるため有害なものを含む)の排出・販売等の,公害発生の直接の原因となるような行為を禁止し,その違反に対して刑罰を定めている。薬品・食品公害を含め各種の公害に対応した多数の取締法規が,それぞれ規定している。この場合,違反に対する行政官庁の改善命令等をまってその命令違反を理由にはじめて処罰される方式と,違反があればただちに刑罰を科す直罰方式とがある。故意犯の処罰が原則だが,過失犯の処罰を定めるものもある。年計数千件単位で適用されている。第3の規制方法は,(1)第2より早期に規制できる,(2)公害の種類は各種取締法の限度で尽きる,(3)個人・企業とも処罰される,(4)禁止された行為の立証で足りる,(5)監督行政官庁の活動に依存する,等の特色がある。

 第4に,各種取締法規が,公害発生の間接的原因となる無許可・無認可行為,届出・報告義務違反等の行為を処罰して,周辺的な規制を行っている。

 公害罪とは,広義にはこれらの法規に規定された罪をいうが,狭義には公害罪法の定める罪をさし,また第4の類型を除いて用いられることもある。
公害 →公害裁判
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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