改訂新版 世界大百科事典 「共沸蒸留」の意味・わかりやすい解説
共沸蒸留 (きょうふつじょうりゅう)
azeotropic distillation
エチルアルコール(沸点78.32℃)は水(沸点100℃)と最低共沸混合物(共沸点78.17℃,エチルアルコール96重量%)をつくる。共沸混合物では液とそれに平衡な蒸気とが同じ組成であるので,普通の蒸留ではエチルアルコールをこれ以上の濃度にすることはできない。しかし,蒸留塔の塔頂からベンゼン(沸点80.099℃)を供給すると,ベンゼンと水とが共沸点69.25℃の共沸混合物をつくり,塔頂へと水を持ち上げてくれるようになり,塔底からは純粋のエチルアルコール,すなわち無水アルコールが得られる。塔頂から出てきた蒸気はコンデンサー(凝縮器)で凝縮され,デカンター(相分離器)に入って2液相に分かれ,ベンゼン相は共沸蒸留塔へ還流として戻り,水相は溶剤回収塔に送られベンゼンが回収される。共沸溶剤としては,ベンゼンのほかにエーテルなどが用いられる。共沸混合物はつくらないが,沸点が近い成分からなる混合物の分離にも共沸蒸留が行われることもある。酢酸水溶液から酢酸を回収するのに酢酸ブチルを共沸溶剤とした共沸蒸留が行われているのはその一例である。
執筆者:平田 光穂
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報