抽出蒸留(読み)ちゅうしゅつじょうりゅう(その他表記)extractive distillation

改訂新版 世界大百科事典 「抽出蒸留」の意味・わかりやすい解説

抽出蒸留 (ちゅうしゅつじょうりゅう)
extractive distillation

エチルアルコール沸点78.32℃)とブチルアルコール(沸点117.25℃)との混合物フラスコに入れて蒸留すると,留出液中にはエチルアルコールのほうが濃縮されてでてくる。しかし,この混合物に水を大量に加えて蒸留すると,逆にブチルアルコールのほうが濃縮されてでてくるようになる。これはアルコールと水の親和性相違によるもので,エチルアルコールのほうが水との親和性が強くて,水に捕らえられて蒸発しにくくなり,逆に水との親和性の弱いブチルアルコールのほうが蒸発しやすくなるからである。このように大量の溶剤を添加して,その溶剤との親和性の相違を利用して混合物を蒸留分離することを抽出蒸留という。抽出蒸留塔では塔内における溶剤の濃度を大きく保つ必要があるので,溶剤は塔頂近くに供給する。溶剤と親和性の強い成分は溶剤とともに塔底より取り出され,溶剤分離塔で分離され,溶剤と親和性の少ない成分は塔頂より留出される。抽出蒸留は石油化学などにおいて,共沸混合物をつくる成分の分離精製のために共沸蒸留とともに利用されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「抽出蒸留」の意味・わかりやすい解説

抽出蒸留
ちゅうしゅつじょうりゅう
extractive distillation

蒸気圧が接近して普通の蒸留では分離しにくい液体混合物や、分離すべき二成分が共沸混合物を形成するとき、原料中のどの成分よりも揮発度が小さく(沸点が高く)原料二成分の相対揮発度を大きく変化させる物質を溶剤として加えて行う蒸留をいう。原料中の溶剤との親和力の小さい成分は塔頂から取り出され、親和力の大きい成分は溶剤に選択的に抽出されて、溶剤とともに塔底から取り出される。塔底からの混合液は別の蒸留塔で溶剤を分離し、溶剤は循環使用する。たとえば、ベンゼンシクロヘキサンは共沸混合物をつくるが、フェノールを添加して蒸留を行うと、塔頂からシクロヘキサンが、塔底からベンゼンとフェノールの混合液が取り出され、フェノールは別の蒸留塔で分離し循環使用される。

 抽出蒸留の溶剤は、分離すべき二成分系の相対揮発度をもっとも大きく有利に変化させ、しかも後の回収が容易なものがよいが、そのほかにも入手が容易で化学的に安定であるなど総合的に優れたものがよい。溶剤が決まったら量をどのくらいにするか、塔頂近くのどの段に連続的に供給するか、さらに回収塔とリサイクルの計算を行うので複雑であるが計算法は確立されている。

[早川豊彦]

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百科事典マイペディア 「抽出蒸留」の意味・わかりやすい解説

抽出蒸留【ちゅうしゅつじょうりゅう】

共沸混合物あるいは沸点が接近しているため分離困難な液体混合物などの分離に用いられる蒸留法の一種。原液中のいずれの成分よりも高沸点の第3成分を添加して蒸留する。第3成分が原液中のある成分と選択的に親和力を示すことによりその成分の揮発度が下がり,他の成分との分離が容易になる。たとえばアセトンメチルアルコールは共沸混合物をつくるが,水を加えて蒸留するとメチルアルコールの揮発度が下がり純粋に近いアセトンが分離される。
→関連項目蒸留

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「抽出蒸留」の意味・わかりやすい解説

抽出蒸留
ちゅうしゅつじょうりゅう
extractive distillation

普通の蒸留では分離できない混合液体に,沸点の高い第3の成分 (溶剤) を添加して,蒸留分離する化学操作をいう。第3成分と混合液体中の各成分間との親和力の大小により揮発度に差を生じさせて,選択的に抽出分離する。たとえば,ベンゼンとシクロヘキサンの分離において,溶剤としてフェノールを添加して,シクロヘキサンとベンゼン-フェノール (これはさらにベンゼンとフェノールに分離される) が取出される操作や,塩酸水溶液から塩酸を回収する場合,硫酸を添加して塩酸を抽出蒸留するなどに用いられている。共沸蒸留と並ぶ特殊な蒸留方法であるが,添加する溶剤の揮発度が小さいなどの点で異なる。

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化学辞典 第2版 「抽出蒸留」の解説

抽出蒸留
チュウシュツジョウリュウ
extractive distillation

共沸混合物あるいは沸点の接近した成分の混合液の分離に用いられる蒸留法の一種.混合物に沸点の高い第三成分を添加して,分離すべき成分の比揮発度を変化させ,蒸留によって分離する.たとえば,ベンゼンとシクロヘキサンは共沸混合物となるが,それにフェノールを加えて蒸留すれば,フェノールの揮発度は両者よりはるかに低く,またフェノールに溶解したベンゼンの揮発度はシクロヘキサンのそれより十分に低くなるため,シクロヘキサンは塔頂から,ベンゼンはフェノールとの混合液として塔底から取り出される.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の抽出蒸留の言及

【蒸留】より

… ある種の混合物のある組成においては,液の組成とそれに平衡な蒸気の組成が等しくなることがあり,これを共沸混合物と呼んでいる。このような場合には普通の蒸留では純粋な成分に分離することができないので,抽出蒸留とか共沸蒸留によって分離を行っている。また,水に溶解しにくい物質の精製には,液の中に直接水蒸気を吹き込んで蒸留を行うことがある。…

※「抽出蒸留」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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