共通農業政策(読み)きょうつうのうぎょうせいさく(英語表記)Common Agricultural Policy

共同通信ニュース用語解説 「共通農業政策」の解説

共通農業政策(CAP)

欧州連合(EU)加盟28カ国が同じ枠組みで進める農業政策前身の欧州経済共同体(EEC)で1962年、経済統合の一環として始まった。当初は食料不足の解消を目的とし、次第に国際競争力強化環境保全を目指す色合いが強まった。農家の所得を下支えする直接支払制度や、条件面で不利な農村の振興政策が大きな柱。日本の旧民主党政権が導入した「戸別所得補償制度」はCAPの一部を参考にしたとされる。

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知恵蔵 「共通農業政策」の解説

共通農業政策

1957年のローマ条約に基づく、EU全体に適用される共通の農業政策。EAGGF(欧州農業指導保証基金)保証部門が行う価格・所得政策(介入買い入れ、輸出補助金、直接支払い)と、農業環境政策や条件不利地域対策などの農村開発政策の2つが中心。過剰生産や財政支出の増大を防ぐために、EUは99年に「アジェンダ2000」の下で支持価格を引き下げた。2003年には、品目別の直接支払いを経営単位の単一支払い計画(SPS:Single Payment Scheme)に変更した。その支払い要件として、従来の環境基準に加え、食品安全、動物福祉にかかわる18の基準を守る必要があるという強制的なクロス・コンプライアンスを採用した。SPSはいかなる生産ともリンクしないので、生産刺激的な農業政策と市場歪曲的・貿易歪曲的な手段による農業所得政策とのつながりを切り離すデカップリング政策として位置づけられる。

(池上甲一 近畿大学農学部教授 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「共通農業政策」の意味・わかりやすい解説

共通農業政策
きょうつうのうぎょうせいさく
common agricultural policy; CAP

ヨーロッパ連合 EU域内における農業分野での共通政策。 1962年ヨーロッパ共同体 EC域内での単一農産物市場の実現,統一価格の実現,農業生産性の向上,農業労働者に対する工業労働者並み所得の保証などを目的として発足。各国ごとの農業助成や農産物輸入制限が廃止され,EC内農産物の統一が実現した。しかし,支持価格制度などを内容とする政策は EC予算の3分の2にまで達し,大きな財政負担となり,1980年代に過剰生産の抑制,支持価格の切下げなどの改革措置が行われたが効果はみられなかった。そのため,91年農産物の支持価格の大幅引下げと,それに伴い農家所得補償の強化という改革案が提示され 93年から実施,同時に農業構造改革基金が設置された。しかし,ECが EUに拡大されたのちも農業問題は解決されず,新たな制度改革が模索されている。

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百科事典マイペディア 「共通農業政策」の意味・わかりやすい解説

共通農業政策【きょうつうのうぎょうせいさく】

EU(ヨーロッパ連合)の各種の共通政策のうちの,農業分野に関するもの。工業製品の関税同盟と比肩してEU経済統合を支える,重要かつ基本的な政策。目的は単一市場の実現,統一価格制度の設定と実施,域外からの農産物流入に対する域内市場の保護,生産性向上のための基金設置と運営の4点である。ただその保護的性格から過剰生産や分担金比率ならびに財政負担を巡って各国間で利害対立が発生し,1985年の単一ヨーロッパ議定書での合意により修正された。改正点は,農産物価格決定を市場機能に委ねる,補助金の膨張を仰える,農産物生産構造の集約化を図ることであった。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「共通農業政策」の解説

共通農業政策(CAP)(きょうつうのうぎょうせいさく)
Common Agricultural Policy

1957年,EEC設立条約39条で定められたEC(現EU)域内での共通農業政策。域内での農業生産性の向上,農業従事者の所得増加と公正な生活水準の確保,市場の安定,供給の安定確保,消費者に対する妥当な供給価格の確保が規定された。62年には,CAP財源確保のためのヨーロッパ農業指導補償基金(EAGGF)が創設された。

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農林水産関係用語集 「共通農業政策」の解説

共通農業政策(CAP) (Common Agricultural Policy)

1958年に創設された欧州経済共同体設立条約であるローマ条約により、共通農業政策が規定され、1968年から本格的に実施されている。CAPは「共通市場制度」と「農村開発政策」の2つの柱から構成され、農業生産性の向上、農家の所得増大、農産物市場の安定化等を目的とする。財政支出の抑制、WTO農業交渉等を背景として、数次にわたり、支持価格の引下げ及び直接支払いや農村開発政策の強化に向けた改革が行われてきた。

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世界大百科事典(旧版)内の共通農業政策の言及

【ヨーロッパ共同体】より

…3共同体の立法機関である理事会と執行機関である委員会が,1965年4月に調印された融合条約によって,単一のEC理事会(通称は閣僚理事会)と単一のEC委員会に統一されることになり,67年7月1日を機に3共同体は機構的に統一され,以後ヨーロッパ共同体と呼ばれることになった。 ECは,68年7月までに関税同盟を完成し,共通農業政策を遂行し,70年代以降は共通通商政策を,さらに外交主権は構成国に残しながらも外交政策を調整するメカニズムとしてヨーロッパ政治協力(EPC)を開始した。通貨協力の面では,71年から経済通貨同盟(EMU)によって為替相場の安定に努めたが,国際通貨体制の動揺と2度にわたる石油危機で,79年3月に誕生したヨーロッパ通貨制度(EMS)に移行した。…

【ヨーロッパ連合】より

…EUの歴史は,まさにナショナル・インタレストに代表される伝統型の〈政府間主義intergovernmentalism〉と,超国家的利益に象徴される〈国際統合〉のダイナミックスとの葛藤の歴史でありつづけている。 〈国際統合〉の前進という面でみれば,ECが,1962年1月に共通農業政策(CAP)の諸原則,すなわち農産物に関する単一価格による単一市場などについて合意をみたこと,68年7月に構成国間の域内関税が全廃され域外共通関税(CET)が設定されたこと,そして79年6月にECに構成国市民の意思を可能なかぎり反映させる目的でヨーロッパ議会の直接普通選挙制を導入し選挙を実施したことなどの諸事例があげられる。 しかし,同時に,ECは〈国際統合〉の挫折および後退の体験も重ねてきている。…

【ヨーロッパ連合】より

…EUの歴史は,まさにナショナル・インタレストに代表される伝統型の〈政府間主義intergovernmentalism〉と,超国家的利益に象徴される〈国際統合〉のダイナミックスとの葛藤の歴史でありつづけている。 〈国際統合〉の前進という面でみれば,ECが,1962年1月に共通農業政策(CAP)の諸原則,すなわち農産物に関する単一価格による単一市場などについて合意をみたこと,68年7月に構成国間の域内関税が全廃され域外共通関税(CET)が設定されたこと,そして79年6月にECに構成国市民の意思を可能なかぎり反映させる目的でヨーロッパ議会の直接普通選挙制を導入し選挙を実施したことなどの諸事例があげられる。 しかし,同時に,ECは〈国際統合〉の挫折および後退の体験も重ねてきている。…

※「共通農業政策」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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