外国人の居住,旅行,遊歩を特別に定められた開市場や開港場の居留地のみに制限しないで,日本の内地で自由に旅行したり居住し,あるいは商工業営業や不動産所有を認めること。安政五ヵ国条約締結の際,アメリカは鎖国時代の長崎出島の慣習が基準とされることをおそれ内地雑居を要求したが,幕府は相互の紛争を懸念し,外国人隔離の方針で居留地を設定した。条約改正で対等条約を実現すれば,相互互恵の原則により,条約国人に日本内地を開放することは当然であり,井上馨外相は内地開放を交渉方針とし,大隈重信外相以後の改正交渉もそれをひきついだ。しかし,明治20年代初頭の国粋主義的気運のなかで,内地雑居により日本経済が外国人に掌握され,土地も占有され,固有の風俗や宗教まで混乱するという反対論が台頭した。1892年内地雑居講究会が組織され,陸奥宗光外相の条約改正交渉が進捗すると,同会が発展して93年10月設立された大日本協会は,真正な対等条約の締結,内地雑居尚早を主張し,現行条約励行を政府に迫った。この反対論緩和のため陸奥外相は,居留地においても土地の賃貸権と家屋の所有権のみを許すことにした。そこで居留地の永代借地権保有者には現状維持を認めたから,彼らは土地所有以上の特権を有することになった。99年日英通商航海条約で内地雑居が決定したのち論争は下火となり,外国風俗の紹介や雑居に関する民衆啓発の雑誌や書籍が発行され,同年7月改正条約の実施で内地雑居がはじまった。
執筆者:藤村 道生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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