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円の国際化 えんのこくさいかinternationalization of the yen

知恵蔵の解説

円の国際化

国際間の貿易・資本取引や各国の対外準備などに、円が広く使われるようになること。円建て取引にかかわる規制を緩和・撤廃し、国際標準に合わせることがその推進に不可欠であるが、国際取引における円の利用度合いは頭打ちとなっている。1997年のアジア通貨危機は、アジア諸国の通貨が実質上、米ドルにリンクしていたことが背景の1つと考えられ、アジア地域において円の役割を高めようという動きがある。日本政府も特に98年以降、円の国際化推進策として、内外資本取引及び外為業務の自由化、国債・政府短期証券の取引慣行の見直しや税制の改革などを行っている。2003年には、非居住者による起債手続きが見直された。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

円の国際化
えんのこくさいか
internationalization of yen

日本の通貨である円が国際取引に使用されたり、外国の人々によって保有されること。換言するならば、円が国際通貨として使用されることである。国際金融論においては、国際通貨とは民間取引では、表示・契約通貨、決済通貨、資産通貨(投資通貨ともいう)、公的取引では、基準通貨、介入通貨、準備通貨、外国為替(かわせ)市場では、為替媒介通貨という機能をもつ通貨をいう。したがって、円がこれらの諸機能を少しでも多く発揮するようになることが、円の国際化ということである。
 具体的にいうならば、民間の貿易取引などの契約が円建てでなされ、その決済が円貨で行われること。さらに、東京国際金融市場やユーロ円市場で、日本人や外国人が円で資産運用を行ったり、資金調達を行うこと、すなわち邦銀の円建て対外融資、サムライ債、ユーロ円債、外国人の日本株投資、非居住者自由円預金などである。こうした国際取引で円の活用が進めば、外国為替市場での円の売買が増大し、最大の取引量となれば、他通貨間の取引を媒介する為替媒介通貨(たとえば、現実的には、円‐ウォンは取引が少ないため直接取引できず、円‐ドルとドル‐ウォン取引に分解して成立させるが、取引が豊富で取引コストが低いため、この仲介をするドルのような通貨のことをいう)になるかもしれない。
 もし、このように民間取引で円が重要性を増すならば、日本と経済依存関係の深い国では、自国通貨の為替政策として、円との安定性を重視して、円で市場介入をするとともに、それに備えて、円を外貨準備として保有することになろう。
 これが円の国際化の具体的意味であるが、現実にはごく一部しか実現しておらず、きわめてマイナーな国際通貨にとどまっているというのが実情である。[中條誠一]

円の国際化のメリットとデメリット

円の国際化には、メリットとデメリットがある。
 メリットは、
(1)通貨発行特権(シニョリッジ)を享受できる。自国通貨が国際的に通用しない多くの国は、外国商品を手に入れるためには、優良な製品を海外に輸出し、外貨を手に入れる努力をしなければならないし、緊急時に備えて、外貨準備を保有しなければならない。しかし、円が国際通貨として受領されるならば、輸出以上の輸入をしても、対外支払いは自国通貨の円ででき、経常収支の赤字は自動的にファイナンス(資金の融通)できる。なぜならば、通常外国人が輸出で受け取る代金の円は、日本の銀行にある当座預金口座に入金され(債務決済という)、預金としてとどまるか、それが日本の債券などに投資され、ほぼ自動的に日本に還流する(資本収支の黒字)からである。もちろん、これができれば、日本は外貨準備を保有する必要もない。この特権をフルに享受しているのが、現在のアメリカである。
(2)円で国際取引を行えるならば、原則として日本側は為替リスクを負う必要がない。
(3)世界で円の調達・運用が増大するならば、もっとも豊富な円資金を有し、円に関する知識や情報の豊富な日本の金融機関の国際金融業務が活発化する。
 デメリットは、
(1)円が国際的に活用されるようになることによって、日本の金融・為替政策のコントローラビリティが弱まる。たとえば、国内的に金融引締め政策が必要な場合に、海外からの円資金流入で効果が阻害される懸念がある。
(2)国際通貨としての円の地位を維持するために、円相場の安定や対外均衡を優先した金融政策が必要となり、政策の自由度が損なわれかねない。
ということであったが、これらのことは、国際資本移動が自由化された今日では、すでに生じていることであり、円の国際化特有のデメリットとはいえない。したがって、円の国際化のメリットのほうが大きいといってよいと思われる。[中條誠一]

円の国際化の条件

円の国際化が進展し、有力な国際通貨となるためには、次のような条件が必要とされる。
(1)日本の経済力、さらには政治力が強大であること。それによって、国際取引において使用通貨に関する交渉力が強まるし、日本への経済依存が高い周辺国は、日本の円と自国通貨の安定化を図らざるをえないからである。
(2)日本が健全な経済政策運営を遂行することによって、円に対する高い信認を確保し、為替相場が安定的であること。
(3)通貨価値の安定のためだけでなく、日本は経常収支の黒字基調を持続し、世界に対し資本輸出国であること。ただし、この条件は、ひとたび最大の国際通貨国である基軸通貨国の地位を得た場合は、「慣性の法則」が働くため必要条件ではなくなる。
(4)日本の金融・資本市場が豊富な資金量を誇り、かつ海外に対して自由で開かれた効率的市場でなければならない。[中條誠一]

円の国際化の経緯と現状

当初は、日本の通貨当局の円の国際化に対するスタンスは、きわめて消極的であったといわざるを得ない。それは、円を国際化することによって、為替相場や金利の不安定性が高まりかねないとか、金融政策の有効性が損なわれかねないという懸念が強かったからである。しかし、1980年代に入り、レーガン政権の強い外圧を背景に、1984年に日米円ドル委員会が、円の国際化に関する報告書を提出。国内金融市場とユーロ円市場の規制緩和、東京国際金融市場の国際化が打ち出され、これを受けて、ユーロ円市場やオフショア市場の開設がなされ、円の国際化推進へと舵(かじ)をきった。
 当初は、外圧による方向転換であったが、その後円の国際化のメリットが認識されるに至り、金融面を中心に円を使い勝手のよい通貨にするための施策が積極的に講じられた。しかし、成果は上がっていない。その原因は、東京国際金融市場の自由化、効率化を推進してきたとはいえ、ロンドン市場等でのユーロ・ダラーの利便性、受領性に及ばないこと、もっとも円の使用が期待できるアジア各国が長らく実質ドル・ペッグ制、あるいはドルとの連動性の強い為替政策を採用しているため、アジアからみた円とドルの安定性に格差があること、長年の国際ビジネスのなかで、日本の主要企業ではドルを主体としたリスク管理システムが構築されてしまっていることなどにある。
 この結果、世界の国際通貨のなかでの円の地位は、日本の経済力に比べ、大きく見劣りする状態に甘んじている。
(1)日本の輸出における円建て比率は約40%、輸入は20数%にとどまっており、主要先進国中最低水準にある。ましてや、アメリカのドルのように、自国以外の貿易である第三国間貿易に円が使用されている形跡はみられない。
(2)商業銀行の国際的な融資活動にどの通貨が使用されているかをみても、多くがドルであるなかで、近年ユーロが台頭し、円はジャパン・マネーとして注目された1988年の11.4%をピークに後退し、2005年には4%を割り込んでいる。
(3)一方、国際債という証券の発行においても、近年はユーロがドルと肩を並べるまでに台頭するなかで、円は1995年の18.1%をピークに低下しつつあり、2005年には3.4%にも落ち込んでいる。
(4)世界の通貨当局が保有する外貨準備については、ドルが65%を維持しているなかで、円は4%を割り込む凋落(ちょうらく)ぶりである。
(5)世界の外国為替市場での取引については、ドルの約90%、ユーロの約35~40%に次いで、約20数%と第3位の地位を維持している。しかし、ドルやユーロは、国際通貨の機能のなかでも、とくに重要といわれる為替媒介通貨機能を果たしているが、円はまったくその役割は担っていない。
 以上のような円の国際化の後退は、中国の人民元がアジアでの国際化のスタートを切ったなかでは、将来深刻な通貨問題をもたらしかねない。少なくとも、人民元が台頭する前の現時点からアジアでの通貨・金融協力を日本がリードし、ドルにかわって、円を人民元と並ぶアジアの二大国際通貨に育成したうえで、両者の対等な協力関係を構築しなければならない。[中條誠一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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