日本大百科全書(ニッポニカ) 「市場介入」の意味・わかりやすい解説
市場介入
しじょうかいにゅう
市場の急激な変動に対し、政府や中央銀行などの公的機関が政策を通じて相場を調整する試み。とくに通貨当局が外国為替(かわせ)相場の行き過ぎた変動を抑える目的で、内外の通貨を売買する為替介入をさすことが多い。日本では、為替介入(正式名称は「外国為替平衡操作」)は財務大臣の権限であり、財務相の代理である日本銀行が外国為替資金特別会計(外為特会)を通じて介入する。たとえば、円売り・ドル買い介入の場合、政府短期証券(FB)を発行して市場から円資金を調達し、これを売ってドルを買い入れる。介入で得た外貨は外貨準備となり、アメリカ国債などで運用する。介入限度額はFBを発行して調達できる上限で、国会の承認が必要。二つ以上の国・地域が為替介入で足並みをそろえることを協調介入、一国・地域のみの介入を単独介入とよぶ。アナウンス効果を目的に、介入発言だけで実際には通貨売買が伴っていない場合を口先(くちさき)介入とよび、逆に、当局が秘密裏に介入する場合を覆面介入という。外国為替市場介入は短期的に効力を発揮することもあるが、一時的に市場メカニズムをゆがめ財政負担につながることから、主要国の間では望ましくない政策とのコンセンサスがある。
海外では、自国通貨の急落を防ぐ目的(通貨防衛)で市場介入するケースが多い。一方、日本では、1973年(昭和48)の変動相場制移行後、投機資金の流入などで為替相場が急速に変動するのを避けるため、市場介入が繰り返されてきた。円はドルに対し上昇傾向にあったため、円売り・ドル買い介入することが多く、とくに1985年のプラザ合意後は、行き過ぎた円高が輸出主導の日本経済に悪影響を及ぼすとして、円売り介入を頻繁に実施した。しかし、2022年(令和4)には、日本とアメリカとの金利差が広がったことなどから急激な円安が進行したため、輸入物価上昇を通じて家計や中小企業などの経営を圧迫するとして、円買い・外国通貨売り介入を実施している。市場介入の結果、外為特会の積立金(外貨準備高)は2022年10月末で約175兆円となった。
株式相場の急速な下落を避けるため、政府が公的資金を活用して株式や上場投資信託(ETF)を購入したり、中央銀行が株式やETFを購入するケースも市場介入の一種と考えられている。ただ、外国為替市場介入よりも市場をゆがめるとして、実際に行われることはほとんどない。
[矢野 武 2023年1月19日]