再発性多発性軟骨炎

内科学 第10版 「再発性多発性軟骨炎」の解説

再発性多発性軟骨炎(リウマチ性疾患)

定義・概念
 耳,鼻,気管,喉頭,末梢関節など全身の軟骨組織を系統的に侵す炎症性疾患であり,進行性に軟骨破壊を引き起こす.発症のピークは40〜50歳であり,罹患率に男女差は認めない.発症率は人口100万人あたり数名とされ,わが国の症例報告,集計においても200例程度のまれな疾患である.
原因・病因
 病因は明らかではないが,血清中に軟骨の構成成分であるコラーゲンに対する抗体が検出されること,局所免疫グロブリン,補体の沈着を認めること,ほかの自己免疫疾患の合併を認めることから,本疾患の発症の背景に自己免疫の関与が推測されている.
病理・病態生理
 軟骨組織の病理像は病初期にはリンパ球,好中球,単球,形質細胞などの炎症細胞浸潤がみられ,プロテオグリカンの消失と軟骨基質の変性,破壊をきたす.主たる浸潤リンパ球はCD4T細胞であり,病変部にIgGとC3の沈着を認める.その後,軟骨組織は肉芽組織から線維組織へと置換される.
臨床症状(図10-12-1)
 発症は比較的急激で,寛解,増悪を繰り返す.耳介軟骨炎で発症することが多く,耳介の疼痛,発赤,腫脹をきたし,進行すると変形に至る.鼻軟骨炎では鼻閉,鼻出血で発症し,経過を経ると鞍鼻となる.また,関節軟骨炎により多発関節炎を認めるが,非対称性に発症することが多い.気管軟骨炎は軟骨破壊と気道の炎症,浮腫により嗄声,喘鳴,呼吸困難,窒息など重篤な症状を引き起こす.このほか,強膜炎,ブドウ膜炎,結膜炎角膜炎など多彩な眼症状や内耳障害によるめまい,難聴を合併することがある.
検査成績
 再発性多発性軟骨炎に特異的な検査はないが,急性期には赤沈の亢進CRPの上昇,白血球の増加,血小板の増加を認め,活動性の評価に有用である.また,抗核抗体,リウマトイド因子,抗好中球細胞質抗体を認めることがあるが,いずれも低力価であり,臨床的意義は不明である.また,軟骨基質の構成成分であるⅡ型コラーゲンに対する抗体が20〜30%に検出されるが,ほかの膠原病においても認められ,診断的意義は乏しい. 画像検査では病変部位を特定するためにガリウムシンチグラフィ,PET検査が有用であり,気道病変が示唆された場合は吸気時,呼気時の胸部CT検査,肺機能検査,呼吸障害に注意しながら気管支鏡検査を適時行う.
診断・鑑別診断
 本症の診断はMcAdamの診断基準に基づいて行う.臨床的に①両側性耳介軟骨炎,②非びらん性リウマトイド因子陰性の多関節炎,③鼻軟骨炎,④眼の炎症(結膜炎,角膜炎,強膜炎,上強膜炎,ブドウ膜炎),⑤気管軟骨炎(喉頭,気管の軟骨炎),⑥蝸牛,前庭機能障害(感音性難聴,耳鳴り,めまい),以上6項目中3項目以上を認め,軟骨の生検で軟骨炎の組織所見があれば確実である.また,①組織所見がなくとも,上記6項目中3項目以上を認める場合,②6項目中1項目以上を認め,軟骨炎の組織所見がある場合,③解剖学的に異なる2カ所以上の部位の軟骨炎を認め,ステロイドないし免疫抑制薬が有効であれば本症と診断される.
 診断には軟骨炎,軟骨破壊を引き起こす細菌感染症,結核,Hansen病,梅毒,サルコイドーシス,悪性腫瘍との鑑別が重要であり,各種培養,組織検査が望まれる.また鞍鼻では外傷,Wegener肉芽腫症,多発関節炎では関節リウマチ,血清反応陰性脊椎関節炎,全身性エリテマトーデスなど膠原病疾患との鑑別を要する.
合併症
 本症の約30%に自己免疫疾患や血液疾患を合併することが知られている.血管炎は約10%に合併し,大動脈から細小動脈まで種々の血管レベルで障害が起きる.心弁膜症や大動脈炎による大動脈弁閉鎖不全症を合併することがある.また,関節リウマチ,全身性エリテマトーデス,橋本病,潰瘍性大腸炎,Crohn病など自己免疫疾患の合併もみられる.血液疾患では悪性リンパ腫,急性白血病がみられるが,近年,骨髄異形成症候群が10%前後に合併することが報告されている.
経過・予後
 本症の経過は軟骨炎の障害部位により異なる.特に気管軟骨炎は重篤化しやすく,窒息により死亡することがあり,早期に発見し,強力な治療を行うことが重要である.
 本症の予後はこれまで5年生存率74%とされていたが,診断,治療の進歩により,最近はかなり改善している.
治療
 本症の治療は確立しておらず,炎症部位とその程度によって治療は異なる.軽度の耳下部の痛みであれば非ステロイド系抗炎症薬で経過をみる.気管軟骨や眼部の炎症がみられる場合はステロイド大量療法を行い,炎症を抑えた後に減量する.ステロイド薬の効果がみられないときはダプソンあるいはシクロホスファミド,アザチオプリン,メトトレキサート,シクロスポリンなどの免疫抑制薬を併用する.また,気管軟骨炎が進行し,気道虚脱,気道閉塞をきたした場合は適時,気管切開,ステント挿入術が行われる.[杉山英二]
■文献
Frances C, Rassi RE, et al: Dermatologic manifestations of relapsing polychondritis. A study of 200 cases at a single center. Medicine, 80:173-179, 2001.
MacAdam LP, O’Hanlan MA, et al: Relapsing polychondritis: prosective study of 23 patients and a review of the literature. Medicine, 55: 193-215, 1976.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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