写真レンズ(読み)しゃしんれんず(英語表記)photographic lens

日本大百科全書(ニッポニカ) 「写真レンズ」の意味・わかりやすい解説

写真レンズ
しゃしんれんず
photographic lens

写真撮影用のレンズで、一般にレンズ、絞り、鏡胴(鏡筒)、フランジ(取付け座金)などからなる。レンズは、ほとんどのものが諸収差を除いて鮮明な像をつくらせるために、ガラスの屈折率を異にする数枚の凸レンズ凹レンズの組合せからなり、全体としては凸レンズとなる。また透過光の損失を防ぐために増透処理(コーティング)が施されている。

[伊藤詩唱]

写真レンズの3要素


(1)焦点距離 撮影では焦点面に被写体を鮮明に結像させることをピントをあわせるというが、レンズの焦点を無限遠にあわせたときのレンズの光学的中心から焦点面(フィルム面)までの距離を焦点距離といい、その数値は通常f=xmmと鏡胴に刻印されている。同一距離から、いろいろな焦点距離のレンズで撮影すると、焦点距離の長いレンズほど被写体の像が大きくなり、また、焦点距離の短いレンズほど小さくなる。

(2)明るさ レンズは光の取入れ口であるから、口径が大きいほど明るく、焦点距離が長ければ暗くなる。したがって明るさは、口径の大きさ(有効口径または入射瞳(ひとみ)の直径)を1としたときの焦点距離との比で表し、たとえば1:8あるいはF8(これをFナンバーという)と表され、レンズの明るさとしては、レンズの絞りを開放にしたときの値をとって1:2などと表示されている。明るさはFナンバーが小さいほど明るく、この値の2乗に反比例する。

 レンズには、透過光量を調節する「絞り」機構が組み込まれているが、一般には絞り径を連続して変えられる虹彩(こうさい)絞りが使われている。カメラを被写体に向けてピントをあわせると、その1点が鮮明に写るだけでなく、その前後にも鮮明と認められる範囲があり、この範囲を被写界深度というが、絞りを変えることにより、この深度を調節することができる。絞りを小さくするほど被写界深度は深くなり、ピントをあわせた点を中心にして奥に深く、前は浅い。また焦点距離の短いレンズほど深くなる。この性質を利用して、約2メートル以遠は鮮明に写るようにレンズを固定した、距離調節装置のないカメラを固定焦点カメラといい、過去には箱型のボックスカメラがその代表であった。

(3)包括角度 レンズは元来円形の像(この範囲をイメージサークルとよぶ)をつくるが、レンズの光学的中心からこれを見込む角度を包括角度という。一般カメラのレンズでは、包括角度と画角(画面の対角線に対する角度、写る範囲、写角)がほぼ等しい。また同一焦点距離のレンズでも、フィルムサイズなど用途によってはこの値が大幅に異なり、レンズ設計上の重要な要素である。

[伊藤詩唱]

標準レンズと交換レンズ

人間がものを眺めるとき、はっきりと見える範囲は角度にして約20度、目を動かさずにだいたい見える範囲が50度内外である。したがってカメラの画角も50度前後が標準とされている。撮影画面の対角線と焦点距離のほぼ等しいレンズは、画角が約50度で自然な感じに写り、このようなレンズを「標準レンズ」とよぶ。

 レンズ交換が可能なカメラでは、その被写体に応じたいろいろなレンズを利用して撮影することができる。

(1)広角レンズ 標準レンズより焦点距離が短く、画角は60度以上でワイド・レンズともよばれ、被写界深度が深く、スナップショットなどには好適である。また広角レンズの特徴として遠近感が誇張されるので、狭い場所を広く見せたり、広大な風景を一つの画面に写し込むときなどに使用される。

 広角レンズは焦点距離が短いので、一眼レフカメラではミラーがじゃまで使用することができない。そのためにレンズの前に凹レンズを配し、レンズ系全体を前進させたものが考案された。このようなレンズは1925年イギリス最初に設計されたが、製品化したのは1950年フランスのアンジェニュー社で、レトロフォーカス・タイプとよばれる。

(2)魚眼レンズ 画角が180度かそれ以上で、レンズを中心とする前方の半球内のものを写すことができる特殊レンズ。水中の魚が水面上にあるものを見るのに似ている画像が得られるところから、こうよばれる。構成はレトロフォーカス・タイプに属し、前玉に大口径の凹レンズを置き、極端な樽(たる)型の歪曲(わいきょく)収差をもつが、全画面が均等な明るさになるよう構成されている。画面の対角線に対して180度の画角をもつものと、画面内に円形に結像させるものとがある。本来は全天雲量を記録するためのもので、全天レンズsky lensともいわれ、1923年にロビン・ヒルRobin Hill(1899―1991。本名ロバート・ヒルRobert Hill)が最初に実用化した。

(3)望遠レンズ 焦点距離が標準レンズより長く、画角は狭く40度以下である。被写体の像は大きく写せるが、被写界深度は浅く、ポートレートや遠景の撮影などに用いられる。また、レンズ群の後ろ側に凹レンズを配した特殊な構成で、全長を短くして取り扱いやすくしたものを、とくにテレフォト・タイプとよぶ。このほか、超望遠レンズのわりには軽量で鏡胴の短いレンズにミラー・タイプがある。1931年にベルンハルト・シュミットBernhard Schmidt(1879―1935)が天体撮影用として設計したものが始まりで、光学系の一部にミラー(反射鏡)を使用し、レンズの全長を短くしたもので、蛍光写真の超大口径(1:0.6)レンズもある。

(4)ズーム・レンズ 構成レンズのなかの一群を動かすことにより、焦点の位置を変化させずに焦点距離(画角)を連続的に変化させることができるレンズ。1932年にイギリスのワーミッシャム・ベル・アンド・ハウエル社とテーラー・ホブスン社が共同で開発した。最初は映画用レンズとして発展したが、現在ではテレビ撮影用として活用され、一般カメラ用としてもよいものがつくられている。

(5)インナーフォーカス・レンズ(内焦点方式) 普通は、レンズ全体または前玉を動かして焦点合わせをするのに対し、構成レンズの中間を動かして行うものをインナーフォーカス・レンズとよぶ。このタイプは、きわめて操作性がよいので、超望遠レンズやオートフォーカス一眼レフ用として利用されている。

[伊藤詩唱]

『小倉敏布著『写真レンズの基礎と発展』(1995・朝日ソノラマ)』『吉田正太郎著『カメラマンのための写真レンズの科学』新装版(1997・地人書館)』『ルドルフ・キングズレーク著、雄倉保行訳『写真レンズの歴史』(1999・朝日ソノラマ)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「写真レンズ」の意味・わかりやすい解説

写真レンズ
しゃしんレンズ
photographic lens

カメラ,映写機などに使用するレンズ。レンズに収差が伴うことは避けられないが,写真レンズとしては球面収差,コマ収差,非点収差や色収差などの少いことが必要である。種類には焦点距離別に,標準レンズ広角レンズ,超広角レンズ,魚眼レンズ望遠レンズ超望遠レンズなどがある。また用途別にはズームレンズ非球面レンズマクロレンズ,映写レンズなどがある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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