凍結受精卵(読み)とうけつじゅせいらん

百科事典マイペディア 「凍結受精卵」の意味・わかりやすい解説

凍結受精卵【とうけつじゅせいらん】

体外受精をさせた受精卵冷凍保存したもの。体外受精では排卵誘発薬を使って,卵巣から多くの卵子採取して受精させ,数個の受精卵を子宮に入れるため,使わない受精卵も残る。これを冷凍保存しておけば,1回の体外受精で成功しなくても,次回以降で使えるメリットがある。 卵子の採取は身体に負担がかかるうえ,排卵誘発薬には卵巣が腫れるなどの副作用もある。この副作用で子宮内膜の状態が悪くなって着床しにくくなったり,重症になると死亡するケースもある。このため,最初につくった受精卵を冷凍保存して使うことは,不妊治療の中心的な方法として期待されている。 凍結受精卵による妊娠は,1983年にオーストラリア・メルボルンのモナシュ大学で初めて成功した。日本では,1988年に日本産科婦人科学会が,(1)卵の保存期間は妻の生殖年齢を超えない,(2)夫婦のどちらかが死亡したら廃棄する,などの条件付きで許可した。1989年に東京歯科大学市川総合病院で,初めて凍結受精卵による双子の女の子が誕生した。 患者の負担が少ないというメリットがある一方で,新たな問題も生じている。米国では,結婚中につくっておいた凍結受精卵をめぐって,離婚した男女間で裁判が起きた。妻はこの受精卵を使って子どもをもつことを希望したが,夫は〈別れた妻との子どもはほしくない〉と主張した。1998年5月,ニューヨーク州最高裁は〈女性の生殖の権利には凍結受精卵の処分権までは含まれない〉として,受精卵の使用を禁じる判決を言い渡した。
→関連項目AID

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「凍結受精卵」の意味・わかりやすい解説

凍結受精卵
とうけつじゅせいらん
frozen embryo

体外受精卵のうち,-196℃で凍結保存される受精卵。体外受精では,卵子の採取に当たり,卵巣刺激剤を用いて多くの成熟卵子を採取し,体外で受精させる。そのうち数個の受精卵は,治療の際に子宮に戻されるが,残りの受精卵は凍結保存されるのが一般的になっている。これは,新たに受精卵を採取する手間や受精の時期の調節などを考慮せずに,最適の機会に受精卵を解凍して利用するためである。日本産科婦人科学会では,1988年2月「ヒト胚及び卵の凍結保存と移植に関する見解」を発表,卵の保存期間などに条件をつけて,凍結受精卵による不妊治療を承認している。日本では,89年 12月に東京歯科大学市川総合病院で双子の女児が,90年2月に山形大学で男子が誕生している。しかし,技術的な安全性の確認や,夫婦が離婚したり死亡した場合の帰属や相続的問題など,未解決の部分が多く,その扱いについては十分な配慮が必要とされる。

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