正常分娩は頭位(胎児の頭が下方にある、正常胎位)の胎児が以下に述べるような経過にしたがって腟を経て娩出された場合をいいます。
正常分娩は陣痛の発来で始まります。規則的な子宮の収縮で子宮口が開き、胎児の頭の下降が認められ、陣痛の周期が10分以内、または1時間に6回以上の陣痛が認められた場合を、陣痛発来とします。陣痛の周期は次第に短くなり、持続時間は長くなっていきます。また、強度も増します。ただし、陣痛のない間欠期は必ず存在します。
陣痛に伴い、子宮口は次第に短くなり、同時に開大していきます。子宮口が10㎝に開大した時を全開と呼びます。このころには、陣痛周期は2~3分、持続時間は40~50秒になります。陣痛発来から子宮口全開までを分娩1期と呼びます。分娩1期は初産の場合で平均10時間、経産婦で5時間くらいです。
通常、子宮口が全開すると破水が起こり、羊水が流れ出します。胎児は、骨盤内の子宮頸管、腟(産道)を下降し、頭、次いで躯幹が娩出されます。この時点が出生時刻になります。子宮口開大から胎児娩出までを、分娩2期と呼びます。分娩2期は、初産で平均2時間、経産婦で平均1時間です。
胎児は狭い産道を通過するために、頭部が変形し、特徴的な回旋を行います。まず頭部は、頭蓋骨のうち、後頭骨が左右頭頂骨の下に潜り込み、さらに左右の頭頂骨が正中で重なりあって(骨重)、頭の断面積が小さくなります。胎児は骨盤内に入り込むために、うつ向いて小泉門が先頭になり、通過断面積をできるだけ小さくします(第一回旋)。
胎児の頭は前後に長く、骨盤入口部は左右に長いため、胎児の頭は左右いずれか横を向いて骨盤に入ってきますが、骨盤出口部は前後に長いため、胎児の頭はこれに合わせて回旋し、小泉門が母体前方に位置する矢状縫合縦の状態になり、胎児の顔面が母体後方を向くように回旋します(第二回旋)。
さらに骨盤出口部では、母体後方の仙骨の弯曲に合わせ、胎児の頭は反り返り(第三回旋)、これにより胎児の頭がスムーズに娩出されます。胎児の頭が娩出される段階になると、胎児の肩が骨盤に入ってきますが、肩は左右に長いので、躯幹の下降とともに、肩も母体前後方向に回旋します。これに合わせ、娩出された胎児の頭も横を向き(第四回旋)、肩、躯幹と娩出されて、胎児が出生します。
この4つの回旋のどれかひとつでも正常にいかないと、分娩停止や分娩遷延といった異常を引き起こします。また、胎児が外陰を通過する際、会陰の伸展性が悪い場合は、会陰を切開し、胎児がスムーズに娩出されるようにする場合があります。胎児が娩出されると、臍帯の拍動はすみやかに止まり、胎児から胎盤への血流が止まります。臍帯を切断して、胎児の娩出は完了します。
胎児娩出から数分すると、子宮の持続的な強い収縮(後陣痛)が始まり、これに合わせて胎盤が子宮壁からはがれて出されます(後産)。胎児娩出から、胎盤娩出までが分娩3期です。正常な例では数分以内です。
胎盤が出たあとは後陣痛が続かないと、胎盤剥離面から大出血することがある(弛緩出血)ので、2時間ほど経過を観察します。この時期を分娩4期と呼ぶことがあります。分娩1期と2期を合わせ、初産婦で30時間以内、経産婦で15時間以内が正常の分娩時間です。
藤井 知行