日本大百科全書(ニッポニカ) 「分配クロマトグラフィー」の意味・わかりやすい解説
分配クロマトグラフィー
ぶんぱいくろまとぐらふぃー
partition chromatography
クロマトグラフィーを分離機構から分類した場合の一つで、適当な媒体に保持された水や各種有機溶媒と、展開剤との間に分配する溶質の分配係数の違いによって分離する方法をいう。たとえば、混合しない二液相の間の溶質の濃度をそれぞれC1、C2とすると、両者の比C1/C2は濃度によらず一定となり、これを分配係数Partition coefficientという。
いま、A物質の分配係数がB物質の分配係数よりも小さいとすると、BのほうがAよりも、ある固定相に入りやすい。そこで、両者の混合物を適当な溶媒で展開すると、Aのほうがよりたくさん移動相である溶媒のほうに入り、BよりAのほうが早く移動することになる。展開剤である溶媒を流し続けることによって、移動速度の大きいAと、移動速度の小さいBとが離れ、分離される。展開(移動相)に液体を用いる方法を液体クロマトグラフィー、気体を用いる方法をガスクロマトグラフィーという。気体の場合は流すガスをキャリヤーガスとよんでいる。
1941年にイギリスの生化学者A・J・P・マーチンとR・L・M・シングが、水分を含むシリカゲルを詰めた管にアミノ酸の混合溶液を流し、そのあとでクロロホルム溶液を流し続けることによってアミノ酸が分離されることを発見したのが分配クロマトグラフィーの始まりであり、続いてシリカゲルのかわりに濾紙(ろし)を使ったペーパー分配クロマトグラフィーを開発し、その有用さから両者は1952年にノーベル化学賞を受賞している。液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーとも、その後種々の改良、開発が行われ、化学、薬学その他物質を扱う広い分野での分離あるいは分析手段としてきわめて重要なものとなっている。
[高田健夫]