劇作家。満州(現、中国東北地方)新京(現、長春)に生まれる。1946年(昭和21)引揚げ。早稲田(わせだ)大学政経学部中退。安保闘争や新島闘争にかかわる一方、学生劇団自由舞台に参加。初期の代表作『象』(1962)は、自由舞台の出身者たちが創立した新劇団自由舞台が初演。1966年演出家の鈴木忠志(ただし)(1939― )らと劇団早稲田小劇場を結成して座付き作者として活躍するが、『マッチ売りの少女』(1966)、『赤い鳥の居る風景』(1967)で岸田国士(くにお)戯曲賞を受賞したのを一つの機に退団し、劇作家として独立する。以後、別役は『移動』(1971)で作風を確立、これは翌1972年に劇作家の山崎正和(まさかず)(1934―2020)や演出家の末木利文(すえきとしふみ)(1939―2017)らと結成した手の会が1973年に初演、ただし、手の会はその後自然消滅した。ベケットの影響下に編み出した独特の文体とユーモアを駆使し、人間の存在を凝視してさりげない人間関係のなかから非日常性をあぶり出した。とりわけ1970年代は文学座のアトリエの会に定期的に新作を提供、演出家藤原新平(しんぺい)(1928―2023)とのコンビで高い評価を得るとともに、別役ブームを招来した。この時期の代表作に『あーぶくたった、にいたった』(1976)があり、このころの戯曲はすでにベケットの傘の下から抜け出して、小市民の不安や孤独を日常生活に根差した独自の感覚で描くようになった。さらには特定の俳優を想定して筆をとるようにもなり、『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』(1987)は三津田健(みつだけん)(1902―1997)と中村伸郎(のぶお)(1908―1991)のために、『はるなつあきふゆ』(1993)は三木のり平(1924―1999)のために書いて成果をあげた。1997年(平成9)に文学座のアトリエの会に書き下ろした『金襴緞子(きんらんどんす)の帯しめながら』で劇作100本に達し、以後も精力的に書き続けた。童話や児童のための戯曲も多い。また、『電信柱のある宇宙』(1980)その他のエッセイの書き手としても、さらには『別役実の犯罪症候群』(1981)なる著書もあるように、新聞や雑誌で独特の視点から事件を解明する犯罪評論家としても活躍し、2002年(平成14)に辞任するまで日本劇作家協会の会長としても、新人の発掘や後進の指導にあたった。女優の楠侑子(くすのきゆうこ)(1933― )は妻。
[大笹吉雄 2018年1月19日]
『『別役実戯曲集』25冊(1970~1998・三一書房)』▽『『別役実童話集』6冊(1973~1988・三一書房)』▽『『あーぶくたった、にいたった』(1976・三一書房)』▽『『別役実の世界』(1982・新評社)』▽『『作家の方法ベケットと「いじめ」――ドラマツルギーの現在』(1987・岩波書店)』▽『『シリーズ「物語の誕生」 現代犯罪図鑑』(1992・岩波書店)』▽『『電信柱のある宇宙』(1997・白水社)』▽『『「母性」の叛乱――平成犯罪事件簿』(2002・中央公論新社)』▽『『犯罪症候群』(ちくま学芸文庫)』
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(2020-3-12)
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…唐の芝居の特徴をひと言でいえば,自分が育った敗戦直後の東京下町や,少年期に親しんだであろう大衆的な読物などの記憶を下敷きにして,その上に形成された〈暗い情念の夢の劇〉とでもいうべきものであろう。 次に,66年に早大出身の演出家鈴木忠志(1939‐ ),同じく早大を中退した劇作家の別役実(べつやくみのる)(1937‐ )らによって結成された〈早稲田小劇場〉は,早稲田の喫茶店2階に稽古場兼用のアトリエを持ち,別役実,佐藤信,唐十郎らの作品を次々と上演した。70年には,69年の《劇的なるものをめぐってI》に続いて,〈白石加代子ショウ〉と副題の付された《劇的なるものをめぐってII》を構成・上演,これは4世鶴屋南北の《桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしよう)》,S.ベケットの《ゴドーを待ちながら》,泉鏡花の《湯島の境内》などの複合からなる夢と現実のはざまの世界を,同劇団の中心女優白石加代子演ずる狂気の女がさまよい生きるという内容のもので,従来の演劇における〈戯曲〉〈近代的俳優術〉などといった固定化した枠組みを解体させ,ゼロの地点から出発しようとする画期的な試みであった。…
※「別役実」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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