翻訳|altruism
原語は〈他者〉を意味するラテン語のalterにさかのぼり,コントに由来し,エゴイズムないし利己主義に対して用いられた。訳語は明治10年代以来で〈愛他心〉とも訳されており,40年代以降には〈愛他説〉〈愛他主義〉〈主他主義〉とも訳された。コントによれば,実証的精神が人類に広まるなら新しい道徳的秩序が生じる。権利を重んじる従来の道徳は利己主義に指導された純粋に個人的な道徳であり,ただ自己の救済にのみ関心を抱き,個人中心的な思考に基づく神学的・形而上学的精神にふさわしい道徳であった。しかし彼の唱える実証哲学は人類・社会の秩序・調和を重んじ,社会的感情を道徳の基礎として義務の感情と全体の精神とを発達させる以上,従来の道徳の代りに,他者の幸福・利益・救済を目的として博愛charitéから指導される社会的な道徳を必要とする。すなわちコントは,権利のために義務を主張するのではなくて,各自の権利を各自に対する他者の義務の結果とみなすこと,利己的な衝動と打算に基づく闘争を同情の本能と好意とによって制圧し,これによって他者の救済に参与すること,つまり〈他者のために生きよ!〉ということこそ,実証的精神に基づく新しい道徳秩序の眼目であると説いた。
→エゴイズム
執筆者:茅野 良男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
他人が追求する善(利益)を行動の義務、正しさの基準と考える立場で、倫理的利己主義(エゴイズム)、そして部分的には功利主義と対立する。愛他主義ともいう。インド・ヨーロッパ語の語源altruismはコントが使い始めて定着したといわれる。利他主義は理論上、義務論の形もとりうるが、実際には目的論の一形態となる。宗教上の掟(おきて)にその主張がみられ、推奨されることが多いが、利己主義と違って、その純粋な学説形態は発見しにくい。イギリス道徳感覚学派、功利主義、その他の多くの立場は部分的に利他主義を含むが、事実上の人間の利己的傾向は否定できないから、極端な利他主義は独断となる。さらに、各人が自分のことをまったく考えず、他人のためばかりを考えれば、自己完成の努力を怠り、また他人に深情けをかけることになって、かえって迷惑を及ぼすことにもなるから、規範的にも普遍的格率とはなりにくい。
[杖下隆英]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…利他行為ともいう。一般には,人間が他人の苦境にさいして労力的・経済的・精神的などの援助をする行為(利他主義)も含むが,社会生物学ないし行動生態学では特別な概念として用いられている。すなわち,自分の残す子孫の数が減るにもかかわらず,他個体の生存を助け,その子孫を増やしてやるような行為をいう。…
※「利他主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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