翻訳|personalism
19,20世紀のヨーロッパおよびアメリカで興った,人格の優越性ないし絶対的価値を擁護する精神運動。人格(ペルソナ)的存在がすべての存在するもののなかで最高の存在様式であるという思想は,神をペルソナ的存在と解するキリスト教神学の歴史のなかで形成されたものであり,たとえばトマス・アクイナスは〈人格は全自然のなかでもっとも完全なもの〉を表す,と言明した。しかし,〈人格〉概念を中心に置く広範囲な精神運動が興ったのは19世紀以降のことである。19世紀哲学運動としての人格主義は,18世紀啓蒙思想に含まれていた粗雑な唯物論に対する反動として興ったもので,自由,創造性などの特徴を備えた人格存在としての人間を,自然界における他のすべての物質的,生命的存在から明確に区別することをめざした。これに対して20世紀の人格主義運動の課題は,一方において人格の尊厳を脅かすさまざまの外的圧力,たとえば人間の〈疎外〉をひきおこす社会・経済機構,科学技術の発達を通じて進展する人間の隷従化,全体主義国家による基本的人権の侵害などに抵抗すると同時に,人間を〈アトム化〉する個人主義,自由主義を批判して,人格が本質的に他の人格に対して開かれた〈交わり〉的存在であることを明らかにすることであった。
アメリカでは1926年にフルーエリングRalph Taylor Flewelling(1871-1960)によって《パーソナリスト》誌が発刊されたが,より影響力の大きかったのは,フランスで32年E.ムーニエが発刊した《エスプリ》誌である。
執筆者:稲垣 良典
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世界観・価値観の中心に人格概念を据える思想をいう。このような人格主義的思想は古くからあるが、人格主義はことばとしてはシュライエルマハーに始まり、体系的主題化の試みは、20世紀初頭、フランスでルヌービエによって悪の問題解決のための実践哲学としてなされた。同時期にドイツでシュテルンによって個体的差異の心理学の基礎的補完物として、アメリカでバウンらによって人格神と諸人格の社会のみを実在者とする思想として、提唱された。その後、アメリカでは実存主義と言語分析との興隆まで連続的発展をみ、ついで新勢力の成果を取り込んで生き延びようとした。またフランスでは改めてカトリシズムを背景に、だが柔軟に、ムーニエの『エスプリ』誌に拠(よ)る運動のなかで、諸国の思想家とも連携しつつ、実存主義的流れ(ベルジャーエフ、ランズバーグ、リクール、ネドンセルら)、マルキシズム的流れ、カンティスムと合流した伝統的唯心論的流れ(ラシエーズ・レイ、ナベール、ル・センヌ、マディニエ、ラクロワら)を、人格概念の擁護と社会参加の要請とにおいて糾合する一大思潮となった。人格主義は独自な個性を認めぬ国家主義、孤立し他者に開かれぬ個人主義、人間の生の諸条件を直視せぬ精神主義を敵視する。
[松永澄夫]
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…したがってそれらは相対的で,絶えざる生成の過程にあり,決して人間から独立に存在する絶対的なもの,不変のものではないと説く。彼はそれを〈人本主義〉〈人格主義〉〈プラグマティズム〉とも称している。それはW.ジェームズのプラグマティズムに最も近い思想で,イギリスにおけるプラグマティズムを代表するものである。…
…フランスの哲学者,人格主義の創唱者。ベルグソンやペギーの影響のもとに1932年10月,機関誌《エスプリ》を創刊,以来人格主義哲学を現代フランスの社会,政治,文化的諸問題に適用する。…
※「人格主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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