日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
利潤率の傾向的低下の法則
りじゅんりつのけいこうてきていかのほうそく
law of the tendency of the rate of profit to fall 英語
Gesetz des tendenziellen Falls der Profitrate ドイツ語
超過利潤獲得を目ざす個々の資本の不断の蓄積は、労働生産力を高め、同時に社会全体の資本の有機的構成を累進的に高度化する。この資本構成の累進的高度化は、不変資本cに比して生きた労働に投下される可変資本vの減少であり、剰余価値率m'を不変とするなら、増大する投下総資本c+vに対する剰余価値総量mの比率である平均利潤率p'を絶えず低下せしめる。計算例で示せば、次の(A)から(D)への進行である。
このように平均利潤率の漸的低下は、労働生産力の低下からおこるのではなく、逆の増大によって引き起こされており、労働の社会的生産力の発展の進行を表す資本主義的生産様式に特有な表現である。したがって、資本主義的生産様式の本質から自明な必然性として利潤率は低下せざるをえないのである。
ところで、この利潤率の低下は、利潤量の増大を排除しない。むしろ、この平均利潤率の低下は、かならず社会の利潤総量の増大を含んでいる。なぜなら、蓄積の進展は、一方で、労働者を増大し、搾取度を増大して社会の総資本の取得する剰余価値量を増大し、他方で、蓄積による労働生産力の増大が、社会の生産手段の総価値の増大より生産手段の分量をはるかに増大させるので、それに組み合わされる労働者はますます増大し、労働の搾取はいっそう増大するからである。このように社会全体としては、一方での利潤率の低下は、他方での利潤量の増大となる。これは、社会の総資本が、平均利潤率の漸的低下より以上に累進的に増大しなければならないことを意味する。そして超過利潤を求める個々の資本の蓄積は、社会全体としては利潤率の低下に結果し、この結果は、逆に個々の資本家により累進的規模の蓄積への強制法則となる。
この利潤率の低下の法則には反対に作用する要因がある。労働の搾取度の増大のほか、労賃の労働力の価値以下への引下げ、不変資本諸要素の低廉化、相対的過剰人口に依拠するきわめて低位の資本の有機的構成の産業部門の発生、高い利潤率を求めて行動する外国貿易や資本輸出、平均利潤の外に置かれ配当のみしか取得しない株式資本の増加などである。これらは利潤率の一義的低下に反対に作用し、利潤率の低下を弱めたり一時的に阻止したりする。したがって利潤率の低下は、現実には傾向的法則としてのみ長期的結果として自らを貫徹する。これを利潤率の傾向的低下の法則という。
利潤率の傾向的低下の法則は、一方では労働の社会的生産力の発展から導かれて資本蓄積を加速するが、他方では資本主義的生産の刺激である利潤率の低下は新資本形成を緩慢にし、資本主義的生産を脅かす。ここにこの法則の内在的矛盾が含まれ、恐慌の爆発へと連関する。
[海道勝稔]
『K・マルクス著『資本論』第3巻第3篇(向坂逸郎訳・岩波文庫/岡崎次郎訳・大月書店・国民文庫)』