改訂新版 世界大百科事典 「過剰人口」の意味・わかりやすい解説
過剰人口 (かじょうじんこう)
over-population
適度人口に比し多すぎる人口が過剰人口ということになるが,マルサスの絶対的過剰人口(人口を扶養するに足る食糧供給量以上に増加した人口)論に対し,マルクスは相対的過剰人口relative surplus-population論を主張した。マルクスのこの概念は主として社会経済的なものであって,次のようなものである。資本主義社会制度のもとにおいては,〈資本の有機的構成〉の高度化の結果として失業者が生ずる。これが産業予備軍と呼ばれる相対的過剰人口である。このように,資本の蓄積過程において一部の労働力は排除されて相対的過剰人口となるのであって,いわばこの相対的過剰人口は資本主義制度に内在する現象である。マルクスは,この相対的過剰人口を三つの形態に区分している。第1は流動的floating過剰人口であって,これには新しい機械の導入や企業の閉鎖等による失業者が含まれる。第2は潜在的latent過剰人口であって,これは貧農や日雇農業労働者のような,適切な雇用機会がないためやむをえず著しく低所得の仕事に就業している人口である。第3は停滞的stagnant過剰人口であって,不規則な日雇的就業者を意味する。
過剰人口の反対概念として過少人口under-populationがある。過剰人口については,人口の増加や減退との関係においてとくに経済学的観点からの研究は多いが,過少人口に対する体系的研究はほとんど行われていない。過剰,過少のいずれの概念も本質的には相対的なものである。なんらかの基準人口に対して過剰であったり,過少であったりする場合の人口を意味するものである。そのような基準人口は一般に適度人口optimum populationと呼ばれ,歴史的にも多くの学者によって理論的研究が行われてきた。人口が適度となるべき基準については,最大の1人当り所得,最大の生産性といった経済的指標がとられることが多い。しかし,このような基準指標の測定に際しては,これらの指標に重大な影響を及ぼす技術,資源,社会経済構造等がすべて一定不変と仮定されるため,非現実的な概念であると批判される。なお,第2次大戦後,とくに1960年代の終りころから,人口増減のない静止人口(安定人口・静止人口)という人口政策目標が世界の関心を高めるに至ったこと,そしてこれに関連して人口ゼロ成長zero population growthという運動がアメリカにおいて起きてきたことにも注目する必要があろう。
→人口
執筆者:黒田 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報