朝鮮半島李朝(りちょう)時代の陶芸の一作風。これには二つの概念があり、一つは陶器の加飾法の一種で、素地(きじ)に白泥を刷毛で塗り、透明釉(ゆう)をかけて焼き上げたもので、刷毛跡がみえるのでこの呼称がある。いま一つは、この刷毛目の装飾を施した高麗茶碗(こうらいぢゃわん)をさす。
高麗時代の12世紀に創始された白土象眼(ぞうがん)法は、李朝時代に入って著しく衰微し、その結果「三島(みしま)」とよばれる作風に堕したが、白土を象眼用ではなく化粧土としてのみ利用した段階の14~15世紀に刷毛目が登場する。忠清南道公州市の鶏竜山窯(けいりゅうざんよう)はその代表窯として名高く、この作風は全国に流布した。刷毛目を地にして大まかな象眼や掻(か)き落としの線描を加えたものが彫(ほり)刷毛目、鉄絵を加えると絵刷毛目、文様のないものは無地刷毛目となる。この種の技法で加飾されたわびの茶碗は刷毛目茶碗とよばれ、わが国では16世紀に取り上げられて珍重された。銘「白妙(しろたえ)」、銘「合甫(がっぽ)」の刷毛目茶碗は有名。なお、刷毛目の手法は現代陶芸でも応用されている。
[矢部良明]
土器の器面に見られる密接した多数の平行細線を呼ぶ日本考古学の用語。弥生土器,土師器(はじき),埴輪(はにわ)に一般に見られ,縦走するものが多い。刷毛目が工具をなでつけた痕跡であることは古くから知られていたが,久しくその工具の正体はわからなかった。しかし,横山浩一の研究によって,幅3~4cmの木の板を繊維方向と直交する方向で切断し,その板の端を使って器面をなでた痕跡であることが判明した。スギなどの針葉樹を用いたものが多く,その木目のうち,軟らかい春材の部分はいちはやく粘土で磨り減り,硬い夏材の部分はそれほど早く減らないため,その起伏の条線が刷毛目となる。刷毛目は須恵器にも見られ,また北海道の擦文(さつもん)土器の〈擦文〉も刷毛目である。縄文土器にも,朝鮮先史土器にも,さらにイタリアなどヨーロッパの先史土器にも,刷毛目に類するものはある。なお陶芸では,正真正銘の刷毛や筆を使って釉薬(うわぐすり)を塗るとき,釉薬がかすれて刷毛の痕跡が残ったものを刷毛目と呼び,高麗茶碗ことに三島などではその味を好んで意匠とする。
執筆者:佐原 眞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…日本列島における一系の軟質赤焼き土器のうち,古いものが縄文土器,中ごろのものが弥生土器,新しいものが土師器と呼ばれている。 弥生土器が縄文土器と異なっている技術的特徴は,鉄器時代の土器にふさわしく,鉄斧で割った板の木目を利用して器面をなでて刷毛目(はけめ)と呼ぶ文様を施し,また鉄の刃で刻んだ櫛描文を描き,溝を彫った叩き板で叩き目をつけ,鉄のナイフで彫った文様を押しつける(スタンプ文)など,土器作りにかかわる木の工具に鉄の利用が目だつことがあげられる。世界の民族例に照らすと,ろくろ登場前の土器作りは女の仕事であることが多いが,土器そのものの観察から,作り手が男女いずれであったかを判定することは至難のわざである。…
…前期には良質な白磁が生まれ,青花(染付)も現れ,粉青沙器(ふんせいしやき)(三島手(みしまで))が盛行した時期であるが,この期を代表するものは高麗象嵌青磁の流れをくむ粉青沙器である。これは白土で器面を化粧する技法と施文法に特徴があり,日本では三島手とよばれ,彫三島(ほりみしま),刷毛(はけ)目,彫刷毛目,絵刷毛目,粉引(こひき)などと分類されている。これらの中で最も尊重されるのは,〈礼賓寺(れいひんじ)〉〈内贍寺(ないせんじ)〉〈内資寺〉〈長興庫〉〈仁寿府(にんじゆふ)〉ほかの官司銘が刻まれた,いわゆる礼賓三島(れいひんみしま)で,官物に供せられたものだけに優れた作品が多い。…
※「刷毛目」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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