児童文学作家。東京・京橋生まれ。少年時代を東京と札幌とで過ごす。早稲田(わせだ)大学独文科に学ぶ。早大童話会の機関誌『童苑(どうえん)』に掲載された「ぼくはぼくらしく」(1942)など写実的な童話の佳作を発表。同誌学徒出陣号(1944)に「夜汽車の話」を書き残して出征、中国で敗戦を迎える。汽車に乗って入営する「僕」を主人公とする「夜汽車の話」では、まだぼんやりした輪郭しかもたなかった「国家」は、復員後の「原始林あらし」(1950。『児童文学研究』掲載)では、原始林に住みついた開拓民を、国有林に入り込むのは違法として追い出しにかかる権力として、はっきりと姿をあらわす。「川将軍」(1951。『びわの実』掲載)ほかで児童文学者協会新人賞受賞。リアリズムを鍛えながら、「国家」や「戦争」へのアプローチを続け、それは、『ヤン』(1967。サンケイ児童出版文化賞)、『魔神の海』(1969。日本児童文学者協会賞)の2長編として実を結ぶ。前者では、戦争に体ごとぶつかっていく中国人少年を、後者では、アイヌと江戸時代の日本との争いを書く。ほかに、ファンタスティックな長編童話『奇跡クラブ』(1966)、短編集『ふしぎなふろしきづつみ』(1973)、成長する少年の心をくきやかに描いた『おかあさんの生まれた家』(1979)、『かわいそうな自動車の話』(1981。野間児童文芸賞)、ミステリアスな『テクテクさんのちょっとこわい話』(1992)、戦争で記憶を失った男が子供時代と出会い直す『森のなかの魚』(1993)、江戸時代の船頭、重吉を主人公とする重厚な長編『千石船漂流記』(1995)、ショートショート集『世界一すてきなお父さん』(1998)など多様な作品がある。雑誌『びわの実ノート』編集同人。1991年(平成3)、紫綬褒章(しじゅほうしょう)を受ける。
[宮川健郎]
『『ぼくはぼくらしく』(1963・三十書房)』▽『『ふしぎなふろしきづつみ』(1973・実業之日本社)』▽『『かわいそうな自動車の話』(1981・偕成社)』▽『『ヤン』(1987・理論社)』▽『『テクテクさんのちょっとこわい話』(1992・文渓堂)』▽『『森のなかの魚』(1993・フレーベル館)』▽『『だんまり鬼十』(1994・フレーベル館)』▽『『千石船漂流記』(1995・フレーベル館)』▽『『世界一すてきなお父さん』(1998・小峰書店)』▽『『魔神の海』『おかあさんの生まれた家』(講談社青い鳥文庫)』▽『『奇跡クラブ』(偕成社文庫)』▽『神宮輝夫著『現代児童文学作家対談4 今西祐行・大石真・前川康男』(1988・偕成社)』▽『宮川健郎著『現代児童文学の語るもの』(1996・日本放送出版協会)』▽『井上ひさし選、日本ペンクラブ編『児童文学名作全集4』(福武文庫)』
昭和・平成期の児童文学作家
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
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