前立腺癌(読み)ゼンリツセンガン(英語表記)Prostatic cancer

デジタル大辞泉 「前立腺癌」の意味・読み・例文・類語

ぜんりつせん‐がん【前立腺×癌】

前立腺にできる癌。排尿障害・排尿痛などがあり、ゆっくりと進行することが多く、骨などに転移することもある。

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精選版 日本国語大辞典 「前立腺癌」の意味・読み・例文・類語

ぜんりつせん‐がん【前立腺癌】

  1. 〘 名詞 〙 前立腺にできる癌腫。排尿障害を起こす。進行はゆっくりだが、骨に転移しやすく、神経痛や腎機能障害を起こす。五〇歳以上の男子に多い。

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六訂版 家庭医学大全科 「前立腺癌」の解説

前立腺がん
ぜんりつせんがん
Prostatic cancer
(男性生殖器の病気)

どんな病気か

 前立腺がんは、欧米では男性がんで罹患数の第1位、死亡数の約20%(肺がんに次いで第2位)を占める頻度の高いがんですが、日本では、男性罹患数は胃がん、肺がんに次いで第3位(2013年全国推計)、死亡数は膵臓がんに次いで6番目(2016年全国統計)です。

 年齢別では、45歳以下ではまれですが、50歳以後その頻度は増え、60代では10万人あたり約300人、70歳以上で500人以上(2012年神奈川県)になります。このように、前立腺がんは高齢者のがんであるといえます。

 今後日本では、食事の欧米化、高齢人口の増加、腫瘍(しゅよう)マーカーであるPSA(前立腺特異抗原(ぜんりつせんとくいこうげん))検査の普及に伴い、前立腺がんの患者は急速に増加し、2020~2024年には、年平均で前立腺がんの罹患数は105,800人となり、男性がんの第1位になると予想されています。

原因は何か

 前立腺がんの原因は遺伝子の異常と考えられており、複数の原因遺伝子が同定されています。また、加齢と男性ホルモンの存在が影響しますが、いまだ明確ではありません。そのため、効果的な予防法も明らかではありません。

 欧米での報告によると、肉やミルクなど脂肪分が多く含まれている食事を多く摂取することにより、前立腺がんの発生が増えると考えられています。一方、穀類や豆類など繊維を多く含む食事はがんの発生を抑える効果があると考えられています。ハワイや米国東海岸在住の日系人は日本人と米国人の中間の発生率であり、食事の欧米化が原因とする考えの根拠のひとつになっています。喫煙との関係を指摘する報告もあります。

 前立腺がんは、遺伝の要素が強いがんのひとつと考えられているため、前立腺がんと診断された親族がいる場合、早め(40歳~)にPSA検査を受けることをおすすめします。

症状の現れ方

 前立腺がんは前立腺の外腺の腺上皮から発生する率が高く、初期にはほとんど症状がありません。がんが大きくなって尿道が圧迫されると、尿が出にくい、尿の回数が多い、排尿後に尿が残った感じがする、夜間の尿の回数が多いなど、前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)と同じ症状が現れます。

 がんが尿道または膀胱に広がると、排尿の時の痛み、尿もれや肉眼でわかる血尿が認められ、さらに大きくなると尿が出なくなります(尿閉)。精嚢腺(せいのうせん)に広がると、精液が赤くなることがあります。さらにがんが進行すると、リンパ節や骨(脊椎(せきつい)や骨盤骨)に転移します。リンパ節に転移すると下肢のむくみ、骨に転移すると痛みや下半身麻痺(まひ)を起こすことがあります。

検査と診断

 前立腺がんは早期では症状がないので、PSA検査で早めに診断することが大切です。PSA検査は血液検査だけの簡単な検査法です。前立腺がんの発見率は、カットオフ値4.0ng/mlで検診を受けると、50~54歳で0.09%、55~59歳で0.22%、60~64歳で0.42%、65~69歳で0.83%、70~74歳で1.25%、75~79歳で1.75%と報告されています。カットオフ値とは、この値を境に再検査や治療を始めるための数値です。

 PSA値は、がんの進行とともに上昇し、診断から進展度(病気の進み具合)、治療効果の判定、再発の有無、予後までも予測することができます。しかし、PSA値があまり上昇しない前立腺がんも15~20%あるため注意が必要です。

 そのほか、直腸診では前立腺がんは硬いしこりとして前立腺内に触れ、経直腸超音波診断では前立腺の変形、低エコー領域として認められます。最近は前立腺がんの早期発見の目的で、MRI検査、PET/CT検査も行われています。

 これらの検査により前立腺がんが疑われたら、麻酔下に経直腸超音波検査で位置を確認しながら、前立腺の10カ所以上を針生検によって組織を採取し、がんの組織診断を行います。

 組織診断では、悪性度(高分化:G1、グリソンスコア3+3=6、中分化:G2、グリソンスコア3+4 or 4+3=7、低分化:G3、グリソンスコア4+4=8以上)と進展度(限局がん:A、B、局所浸潤(きょくしょしんじゅん)がん:C、進行がん:D)を調べます(表3)。

 前立腺がんの周囲への進み具合は、経直腸超音波検査、骨盤部のMRIによって調べます。全身のリンパ節転移は全身CT検査、PET/CT検査で、全身の骨転移については骨シンチグラフィが有用で、また最近は全身のMRI検査(DWIBS(ドゥイブス)法)の有用性が報告されています。

前立腺肥大症との区別

 早い段階では、前立腺肥大症と前立腺がんに症状の差はありません。どちらも、血尿や尿が出にくくなるなどの症状が現れます。前立腺肥大症ではどんなに進んでも、骨の痛み、下肢のむくみなどはみられません。直腸診では、前立腺肥大症は、弾力性のある腫大(はれて大きくなる)した表面が平滑な腫瘤(しゅりゅう)として触れますが、がんでは、硬いしこりを触れます。PSA値は、前立腺がんのほうが高値を示します。最終的には、前立腺の針生検を行って診断します。

治療の方法

 まず、がんの進み具合や悪性度別の治療方針について説明し、そのあとで各治療法について述べます。

①進展度、悪性度別の治療表4

a.高分化がん(G1、グリソンスコア3+3=6)

 限局がんの場合は前立腺全摘出術(全摘)、小線源(しょうせんげん)療法(放射線療法)が第一選択ですが、内分泌療法も有効なので、どれを選択しても生命予後には影響しません。限局がんでもさらに初期の場合は無治療、厳重な経過観察も選択可能です。

b.中分化がん(G2、グリソンスコア3+4 or 4+3=7)

 限局がんの場合は、全摘あるいは小線源療法、外照射(がいしょうしゃ)療法(放射線療法)が第一選択です。内分泌療法をまず行い、再度生検で効果を確認したあとで治療法を選択することも可能です。局所浸潤がんの場合は、内分泌療法後に放射線療法を行うのが一般的です。進行がんの場合は内分泌療法が第一選択です。

c.低分化がん(G3、グリソンスコア4+4=8以上)

 限局がんの場合は、全摘が絶対的適応です。局所浸潤がんでは、内分泌療法と抗がん薬療法を行い、さらに放射線療法を併用します。進行がんでは、内分泌療法、放射線療法、抗がん薬療法を併用しますが、予後は不良です。

 75歳以上の高齢者では、前立腺の全摘の代わりに、放射線療法を選択するのが一般的です。このように悪性度、進展度、患者さんの状態によりさまざまな治療法の選択肢がある一方で、どれを選んだらよいか迷う場合があります。この場合、セカンドオピニオンといって他の専門医の診察を受け意見を求めることもできます。

②主な治療法と副作用

a.内分泌(ホルモン)療法表5

 前立腺がんの多くは、精巣および副腎から分泌される男性ホルモンの影響を受けて増殖します。男性ホルモンの作用を低下させることを目的として、「LH­RH(GnRH)アゴニスト」製剤(リュープリン、ゾラデックス)あるいは「LH­RH(GnRH)アンタゴニスト」製剤(ゴナックス)を皮下注射する方法が一般的です。中止すると男性ホルモンは元にもどります。精巣(せいそう)摘出術(去勢術)では同じ効果が一生続きます。最近では、これらに抗男性ホルモン薬を加えたMAB療法が一般的です。

・抗男性ホルモン薬……男性ホルモンがその受容体(AR)に結合するのを抑制して、男性ホルモンが血中にあってもその作用が起こらないようにする薬です。ビカルタミド(カソデックス)、フルタミド(オダイン)、クロルマジノン(プロスタール)そして、新規薬剤としてエンザルタミド(イクスタンジ)があります。

 内分泌療法を続けると、いわゆる更年期障害が現れ、発汗異常、性欲の減退が認められます。内分泌療法としては、かつては女性ホルモン薬のエストラサイト、プロセキソールなども使われましたが、電解質の代謝異常、心電図の異常、肝機能障害、性欲の減退、女性化乳房などの副作用が起こることがあり、現在はほとんど使用されません。

b.外科療法(前立腺全摘出術)

 がんが前立腺内に限られている時、手術により精嚢腺を含む前立腺全体を摘出してがんを取り除く方法です。下腹部を切開して行う開腹手術に、最近は腹腔鏡による治療法やさらにロボット支援下手術も行われています。入院期間は約2週間で、原則として開腹手術では輸血に備えて自己血貯血(ちょけつ)を行いますが、腹腔鏡、ロボット支援下手術では不要となりました。合併症には、尿失禁、勃起不全(ぼっきふぜん)などがあります。

c.放射線療法

 高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺す方法です。近年、放射線治療技術が進歩し、陽子線や重粒子線を使用したり、IMRT(強度変調放射線治療)や3D(三次元原体照射)の使用で副作用を減らし、治療効果の改善が得られています。

 また、これまでの外照射療法のほかに、小線源療法といって前立腺に放射線を出す小線源(ヨウ素125)を埋め込む方法(組織内照射療法)があります。副作用は、排尿痛、血尿、直腸からの出血などがみられます。

d.化学療法(抗がん薬)

 内分泌療法が効きにくい低分化がんや、再発・再燃した時に行う治療法です。抗がん薬として現在は一般的にドセタキセル(タキソテール)、そして新規薬剤としてカバジタキセル(ジェブタナ)が使用され、一定の効果が認められていますが、効果が続く期間が短いという欠点があります。副作用としては、手足のしびれ、骨髄機能の低下などがあります。

e.その他の治療法

・アビラテロン酢酸エステル(内服薬:ザイティガ)療法……副腎由来の男性ホルモンを遮断(CYP17阻害)する新しいタイプの内分泌治療薬で、原則としてステロイド薬のプレドニゾロン(プレドニンなど)との併用で使われます。

・塩化ラジウム(223Ra注射薬:ゾーフィゴ)療法……骨転移に対する新しい放射線同位元素を用いた治療法です

・ビスホスフォネート製剤……もともと高カルシウム血症の治療に使われていた薬ですが、前立腺がんの骨転移の痛み、骨折の軽減などに有効なことがわかってきました。点滴で投与します。

ストロンチウム療法……ストロンチウムが体内でカルシウムと同じはたらきをすることから、ストロンチウムの放射性同位元素を投与して、骨転移の痛みを和らげる治療です。放射性物質のため治療のできる施設が限られます。骨髄機能が低下する可能性があります。

③再発と再燃

 治療によりいったん低下したPSA値が再び上昇したり、局所の再発、リンパ節または他臓器に新たに転移がみられた場合、再発といいます。最初から進行がんと診断され、内分泌療法を中心に治療し、いったん低下したPSA値が再び上昇した場合を再燃(去勢抵抗性前立腺がん:CRPC)といいます。再発・再燃に対する標準的な治療法はまだ定まっていません。どのがんもそうですが、再発あるいは再燃したら根治治療は難しいのが現状です。

④治療成績と予後

 前立腺がんは早期発見例が増加したことと、内分泌療法が有効なため、他のがんと比べると治療成績と予後は比較的よいがんといえます。

 5年生存率は、限局がんでは90%以上、局所浸潤がんで70~80%、進行がんで40~50%です。とくに、限局がんでも高分化、中分化がんでは5年生存率は100%近くになります。最新の情報はインターネットなどで得られます。

病気に気づいたらどうする

 一般開業医あるいは検診センターでPSA検査を受けてください。PSA検査を継続的に受けることで、前立腺がんの死亡率が低下することが報告されています。PSA検査の結果が4ng/ml以上だったら、泌尿器科専門医の診察を受けてください。PSA値が4~10ng/mlをグレーゾーンといい、針生検で20~30%の割合でがんが発見されます。PSA値が10ng/ml以上だったら、針生検を受けることをすすめます。

 生活での注意は、脂肪の多い食事はひかえ、繊維、穀物、豆類を多くとり、運動をして太らないようにします。もちろん禁煙です。

三浦 猛



前立腺がん
ぜんりつせんがん
Prostate cancer
(お年寄りの病気)

高齢者での特殊事情

 高齢化に伴い、前立腺がんは男性では肺がんに次いで死亡率が高い病気です。血液検査で前立腺特異抗原(PSA)を測定することで、無症状での前立腺がんの早期発見ができるようになりました。

 一般に数値が4ng/ml以上高値ならば前立腺がんを疑い、前立腺生検をして、がんかどうか病理診断をします。生検でがんが証明されると「グリソンスコア」でがんの悪性度が判定されます。

 がんの広がりはコンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)検査で調べます。骨シンチグラフィーで骨転移の有無も検索します。これらの検査結果でがんの病期分類をします。

治療とケアのポイント

 治療の選択は原則として病期分類に従って行われますが、悪性度も考慮します。高齢者では全身状態や家庭環境、経済的状況なども考える必要があります。80歳以上の高齢者で悪性度の低いがんに対しては積極的治療をせずに、定期的なPSA測定で経過をみる待機療法が選択されます。

 積極的な治療としては抗男性ホルモン療法(内分泌療法)、手術療法(根治的前立腺全摘除術)、放射線療法などがあります。内分泌療法が広く行われていますが、根治的には手術療法を選択します。75歳以下で転移がなく、がんが前立腺内に限局している場合に適応となります。

 近年、放射線療法は従来の外照射法の他に組織内照射法(小線源療法)も行われるようになりました。進行がんや内分泌療法が無効の内分泌抵抗性がんに対して最近、化学療法(かがくりょうほう)が導入され、また骨転移に対しても化学療法が行われ始めていますが、いずれの化学療法もいろいろな副作用があり、高齢者では十分な注意が必要です。手術療法では術後後遺症の尿失禁が問題で、失禁ケアが大切となります。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「前立腺癌」の解説

ぜんりつせんがん【前立腺がん Prostatic Cancer】

◎高齢者のがんで、急増している
[どんな病気か]
 前立腺がんは、前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)(「前立腺肥大症」)と異なり、前立腺の、尿道からはなれた部分から発生するがんです。このために前立腺がんは、ある程度進行しないと排尿障害はおこりません。いいかえれば、排尿障害をともなうようになったときは、前立腺がんは少し進行していることになります。
 前立腺がんは、40歳代から発生するといわれていますが、臨床的には50歳代からみられ、年齢が進むにつれてその頻度が高くなる、典型的な高齢者のがんで、8割以上が65歳以上です。これは、老齢になるにつれて女性ホルモンの分泌(ぶんぴつ)が少なくなり、性ホルモンの不均衡がおこるためといわれていますが、詳しいことはまだわかっていません。
 欧米では、男性に発生するがんのうちでいちばん多いのが前立腺がんですが、日本では、まだそれほどではありません。しかし、日本の前立腺がんは急激に増加し、将来も増加の一途をたどると推測されています(「増え続ける前立腺がん」)。
 このがんは、初期にはあまり症状がなくても、放っておくと骨に転移して激しい痛みをともなうことが多いものです。高齢者が多いため、他の臓器のがんを合併する頻度も高くなります。
 前立腺がんになると、腫瘍(しゅよう)マーカー(「腫瘍マーカー」)といって、血液の中の特別な成分が増加することが古くから知られています。最近ではこの研究がさらに進み、非常に鋭敏なマーカー(「PSA(PA)(前立腺特異抗原)」)が開発され、前立腺がんの9割以上が異常値を示しています。
 このため、老人検診などの際にこのマーカーの検査から、前立腺がんが発見されることが多くなっています。
[症状]
 初期には痛みや排尿障害、血尿などの症状はなく、なんの症状もないのが特徴といえます。進行してくると、頻尿(ひんにょう)、排尿困難、残尿感(ざんにょうかん)、ついには尿閉(にょうへい)などの排尿障害がおこります。さらに進行すると、転移による激しい骨の痛み、貧血や下肢(かし)のむくみなどがおこります。
[検査と診断]
 発病の初期はまったく無症状で、50歳以上になると発病する危険が高いがんですから、年に1回ぐらいは泌尿器科(ひにょうきか)専門医の検査を定期的に受けることがたいせつです。またこの年齢になったら、チャンスがあれば前述のマーカーの検査を受けるようにしましょう。
 経直腸触診(けいちょくちょうしょくしん)といって、肛門(こうもん)から指を挿入して前立腺を触れてみる検査がありますが(痛くはありません)、熟達した専門医ならば非常に高率で、がんかどうかがわかります。しかし、最近は触診でわからないような小さながんも増加しているので、触診、腫瘍マーカーや超音波検査の組み合わせで診断を進めていきます。
 がんの存在が疑われるときは、前立腺の組織を一部採取して、がんかどうかを病理学的に調べる前立腺生検(せいけん)を行ないます。
 これは、直腸を介して、または会陰部(えいんぶ)から特殊な針を使って前立腺を採取するのが一般的で、通院でも行なえますが、入院しての検査のほうがより確実で安全性が高いようです。また、経尿道的に前立腺を切除して病理学的検査を行なう場合もあります。
 がんの広がりや転移などを調べるために、排泄性尿路造影(はいせつせいにょうろぞうえい)、尿道造影、超音波検査、CT、MRI、骨・腫瘍シンチグラフィー、骨X線撮影などの画像診断が行なわれます。
◎初期であれば手術療法も
[治療]
 前立腺がんは、その広がりや年齢によって治療法がちがいます。前立腺がんは男性ホルモン依存性のものが多く、抗男性ホルモン療法によってよくコントロールされることが古くから知られています。
 早期で、年齢が比較的若い患者さんには、前立腺を摘出してしまう手術療法が行なわれます。また放射線療法、がん化学療法も行なわれます。
 どの治療法を選択するかは、専門医とよく相談して決めてください。
●手術療法
 手術療法は、がんが前立腺の一部分にとどまっていて、年齢の若い人に行なわれます。
 全身麻酔のもとで、被膜(ひまく)を含めた前立腺と精嚢腺(せいのうせん)とをすべて摘出します。その後いったん切断した尿道と膀胱を縫い合わせ、転移を防ぐため、周囲のリンパ節をすべて摘出するリンパ節郭清(かくせい)も行ないます。
 これらの操作を骨盤内(こつばんない)の深い部位で行なうので、手術に5~6時間以上はかかり、輸血も2000mℓ以上必要になることもあります。
 手術後は、体外へ尿を導くために、3~4週間カテーテルを尿道に入れておきます。最近は手術法が改良されていますが、5~10%の人に手術後尿失禁(にょうしっきん)がおこります。尿失禁は2~3か月で治る場合と、治らないで生涯続く場合とがあります。
●抗男性ホルモン療法
 前立腺がんは男性ホルモンに依存しているがんなので、男性ホルモンを体内で産生しないようにしたり、ホルモン剤を内服することで前立腺がんをコントロールすることが半世紀以上前から行なわれています。
 抗男性ホルモン療法は、高齢者や、がんがかなり広がっている患者さん、転移のある患者さんに行なわれます。日本ではまだまだこのような前立腺がんが多いので、抗男性ホルモン療法が治療の中心になっています。
 この治療法では、まず去勢術(きょせいじゅつ)を行ないます。これには、男性ホルモンのおおもとである精巣(せいそう)(睾丸(こうがん))を手術で摘出し、男性ホルモンをつくれなくする方法と、最近では、注射によって精巣が男性ホルモンを産生しないようにする、化学的な去勢法とがあります。
 女性ホルモンの内服は、手術的去勢術に合わせて用いられることが多いのですが、ときには単独で使われる場合もあります。女性ホルモンの内服では、まれに心臓に障害がおこることがあります。また、乳房が女性のように大きくなったり痛くなったりすることが、一時的にあります。
 抗男性ホルモン療法では、前立腺がんが根治して消失してしまうことは少なく、がんの勢いを減弱して、症状をやわらげ、たとえがんが体内に存在しても、障害をおこさないで天寿を全うすることを目的としています。
 転移のある患者さんでも、抗男性ホルモン療法によって長生きをされ、前立腺がん以外の原因で亡くなる人が多いのも事実です。
 たとえ痛みなどの症状が消えたからといって、治療を中断すると、せっかく勢いの弱ったがんが、すぐにもとの勢いを取り戻して、再発したり転移したりします。
 原因はわかりませんが、前立腺がんのなかには、抗男性ホルモン療法がまったく効かないものや、数年間よく効いていたのに効果がなくなってしまうというものもあります。担当の先生によく診(み)てもらいながら、抗男性ホルモン療法を受けるようにしましょう。
●放射線療法
 放射線療法は、前立腺のある場所をめがけて放射線を照射する治療法ですが、これは、がんがある程度広がっていて転移(リンパ腺を含めて)のない場合に用いられます。だいたい5~7週間照射を行ないます。通院でも放射線療法は可能ですが、入院して治療したほうがよいでしょう。昔はがんに効くだけの量の放射線を照射すると、非常に強い障害がおこりましたが、最近は放射線治療機器と照射法が改良され、障害は少なくなりました。抗男性ホルモン療法と併用するとより効果的です。
 また、骨に転移があって痛みの激しいときには、痛みをとる目的で、転移した部位をめがけて放射線を照射しますが、これも効果的です。
●がん化学療法
 抗男性ホルモン療法がまったく効かなかったり、一時的に効いても効果がなくなった患者さんに、多数の抗がん剤を組み合わせてがん化学療法を長い期間をかけて(数か月単位)行なう場合があります。
 副作用も相当強いのですが、数年間も化学療法を続けている患者さんもいます。この治療には、放射線療法も併用されます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

四訂版 病院で受ける検査がわかる本 「前立腺癌」の解説

前立腺がん

 前立腺がんは、欧米ではとても罹患率の高いがんです。日本でも少しずつ増えていて、今後、食生活の欧米化や人口の高齢化を考えると、さらに増えていくと思われます。50歳以降から加齢とともに増加する、男性の高齢者のがんといえます。

●おもな症状

 初期では、無症状のことも少なくありません。進行すると、尿路通過障害として排尿困難や頻尿ひんにょう(尿の回数が増える)、残尿感など。膀胱ぼうこうや尿道まで浸潤しんじゅんすると、排尿痛や血尿が出ることもあります。

①指診/腫瘍マーカー

  ▼

②前立腺超音波/膀胱尿道造影

  ▼

③穿刺吸引細胞診(病理診断)

直腸内触診と確率の高い腫瘍マーカー

 前立腺がんの診断には直腸内触診(直腸内指診)が重要で、肛門から指を挿入して病変の有無を確認することができます。

 腫瘍マーカー(→参照)は、前立腺特異抗原であるPSAやPAP、γ-Smが使用されていて、診断や治療効果の判定に重視されています。

画像診断、生検で鑑別・確定

 上記の初期検査でがんが疑われたら、前立腺(経直腸的)超音波や膀胱尿道造影(→参照)を行います。似たような症状を示す前立腺肥大症や前立腺炎との鑑別が大切で、診断が難しい場合には、超音波で病変を確認しながら穿刺せんし吸引細胞診(細い針を刺して細胞を採取し、病理検査する)を行い、診断を確定します。

 また、前立腺がんは骨に転移することが多いのが特徴で、転移したためにおこる骨痛や腰痛を初発症状として発見されることもあります。その場合、骨の単純X線撮影では独特な像を示すことがありますし、CT、MR(→参照)、骨シンチグラフィ(RI検査)で発見されることもあります。

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

食の医学館 「前立腺癌」の解説

ぜんりつせんがん【前立腺がん】

《どんな病気か?》


 前立腺(ぜんりつせん)がんは男性に発生するがんで、かつては欧米人に多く、日本人はかかりにくいがんとされていました。1年間に前立腺がんと診断された日本人男性の数は、1975年には2000人程度でしたが、2016年には9万人を超えているとみられ、約30年で45倍以上に増加しました。2016年のがん統計予測では、日本人男性がかかりやすいがんとして、胃がんを抜いてトップになっています。とくに50歳以降に多くみられ、8割が65歳以上と、典型的な高齢者のがんといえます。
 おもな原因は、加齢にともなう女性ホルモン分泌の減少によるホルモンのアンバランスだとされていますが、まだはっきりした原因は解明されていません。
 前立腺がんは、初期段階では排尿障害がみられません。進行とともに、頻尿(ひんにょう)、残尿感(ざんにょうかん)、排尿困難(はいにょうこんなん)などの排尿障害が現れます。

《関連する食品》


〈ファイトケミカルがホルモンバランスをととのえる〉
○栄養成分としての働きから
 ファイトケミカルの英字表記はphytochemicalで、植物由来の(体に良い)化学物質という意味です。チョコレートや赤ワインに含まれるポリフェノールや、ブルーベリーのアントシアニン、ゴマのセサミンなど、最近ではサプリメントとして見られるものがたくさんあります。このうち、ダイズに多く含まれることで知られるイソフラボンは、人間の体でいうエストロゲンというホルモン(女性ホルモン)に似た構造をもっています。そのため、ホルモンバランスの乱れが原因といわれる前立腺がんの予防効果があるのです。イソフラボンはダイズ以外にも、アズキやインゲンマメ、アルファルファなどに多く含まれています。
 トマトに含まれるリコピンも前立腺がんを予防するといわれています。冷やしトマトやサラダだけでなく、多くの料理に利用して十分な摂取を心がけましょう。

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知恵蔵 「前立腺癌」の解説

前立腺がん

前立腺(ぜんりつせん)がんとは、男性だけにある前立腺に発生するがんのこと。主に高齢の男性に見られる。
前立腺は、膀胱(ぼうこう)の下に尿道を包み込むように位置するクルミの実ほどの大きさの臓器で、精液の一部を作っている。
2002年に天皇陛下が前立腺がんの全摘手術を受けたことや、最近では10年1月、世界一周「アースマラソン」を敢行中の間寛平が前立腺がんにかかっていることを公表したことなどから注目が集まっている。
早期の前立腺がんには、症状はほとんどなく、あったとしても、尿が出にくい(排尿困難)、尿の回数が多い(頻尿)、排尿後も尿が残った感じがある(残尿感)などの前立腺肥大症に伴う症状が多い。
前立腺がんの患者は近年増加しており、20年には肺がんに次いで男性のがん罹患(りかん)率では第2位になると予測されている。
患者増加の背景として、PSA(前立腺特異抗原と呼ばれる診断方法)の普及があげられる。
PSAは非常に敏感な腫瘍(しゅよう)マーカーで、前立腺がんの早期発見には必須の項目となっている。血液検査で簡単に調べることができ、基本的に前立腺の異常のみを検知する。
ただし、PSA値が異常であっても必ずしも前立腺がんであるとは限らない。診断のためには、肛門(こうもん)から指を挿入して前立腺の状態を確認する「直腸診」や肛門から超音波器具を挿入して行う「経直腸的前立腺超音波検査」、針で採取した前立腺の組織を調べる「前立腺生検」などを行う必要がある。
このような検査結果や、患者の年齢、今後の見通しなどを含めて治療法を検討する。前立腺がんの治療には、「手術療法」「放射線治療」「ホルモン療法」の他、特別な治療を実施せず経過観察を行う「待機療法」がある。

(星野美穂  フリーライター / 2010年)

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改訂新版 世界大百科事典 「前立腺癌」の意味・わかりやすい解説

前立腺癌 (ぜんりつせんがん)
prostatic cancer

前立腺に発生する悪性腫瘍で,欧米では肺癌に次いで多い代表的な男性の癌である。日本ではそれほど多くはないが,最近は増加の傾向にあるといわれている。60歳以上の高齢者に多く,骨盤や脊椎などの骨と骨盤内リンパ節に転移を起こしやすい。症状は,癌に侵された前立腺で尿道が圧迫され,前立腺肥大症にみられると同様な排尿の障害が起こる。このほかに,骨転移による腰・背部の骨の痛みや,骨盤内リンパ節転移による神経の圧迫で坐骨神経痛などが初発症状として発現することもある。他の悪性腫瘍と同様に初期には大部分が無症状であるため,前立腺の検査を含む定期健康診断で早期発見につとめなければならない。一般に前立腺は男性ホルモンに支配されているが,前立腺癌も同様に,このホルモンによって発育が促進されていることが多い。したがって,両側の睾丸摘出(去勢術)と女性ホルモンの投与によって症状が軽快することが多い。これを抗男性ホルモン療法と呼び,手術が行えない70歳以上の高齢者や進行した場合に応用される。手術が可能な比較的若い初期の症例では,前立腺の摘出手術が行われる。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「前立腺癌」の意味・わかりやすい解説

前立腺癌【ぜんりつせんがん】

前立腺に発生した癌。50歳以上に多く,発育は緩慢であるが進行すると会陰部の不快・重圧感や疼痛(とうつう)を生じ,血尿,尿道狭窄(きょうさく),排尿痛,排尿困難などを呈する。骨盤,脊柱などへの転移を起こしやすい。直腸内指診,生検,X線検査,分泌物検査などにより診断。治療には女性ホルモン投与や前立腺全摘除術を行う。
→関連項目ハギンズ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「前立腺癌」の意味・わかりやすい解説

前立腺癌
ぜんりつせんがん
prostatic carcinoma

前立腺に発生する上皮性の悪性腫瘍で,70歳以上の高齢者に多い。欧米人に比して日本人には格段に少いが,近年急増している。骨,特に骨盤骨や腰椎に転移しやすい。初発症状は排尿困難,頻尿,便秘,骨転移のための腰痛など多彩であるが,癌が相当に進行するまで現れない。治療面では,抗男性ホルモン療法といわれる女性ホルモン投与や精巣摘除がきわめて有効で,これが他臓器の癌と違った特徴といえる。

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