中国の日常的な実践道徳を具体的に示した書。善書(勧善の書)の一つ。書中に分類列挙された規準となるべき行為の項目を格と称し,巻末の月日ごとに区切られた1年間分の点数記入一覧表を格図とか格目之図とか称し,この書を功過格と称した。日常的な行為を功(善)と過(悪)に分類して,その行為の一つ一つに点数を与え,一功(プラス1点)とか一過(マイナス1点)とかとする。これに従って,毎日就寝前にその日の行為に基づいて自己採点をし,月末に小計し年末に総計算を行う。その結果に相応して禍福が与えられるとする。これは人間の禍福は,その人の行為のいかんによって定められるという因果応報の思想に立脚するものである。かかる思想は,古くは《易経》の文言伝の積善・積不善が余慶・余殃に結びつくとするところに見えて以来存在するもの。晋の葛洪(かつこう)の《抱朴子》内篇巻三の〈対俗〉,内篇巻六の〈微旨〉には,人間の行為の結果を神が判断して,その人の寿命を定めるという後の功過格の基本的な考えが見られる。これが南宋初の《太上感応篇》に取り入れられ,功過格の基本的な型ができ上がった。
しかし,ここでは功過格の特色である行為を点数化して計量することはまだ行われていない。現存する功過格の最古のものは《太微仙君功過格》(《道蔵》洞真部戒律類所収)と見られている。これは道教教団内で行われたもので,道教的色彩が濃厚である点,これ以後のものと異なる。功過格が最も流行したのは明末・清初で,《雲谷禅師授袁了凡功過格》と雲棲太師袾宏《自知録》が最も広く行われた。清代に入ると功過格の整理集大成が行われ,《広功過格新編》《彙編功過格》《彙纂功過格》《功過格輯要》などが作られた。功過格は,明末の三教合一の思想の流行を背景に儒仏道にわたり,かつ一般の倫理道徳を含む点に,思想的な特色がある。江南を中心にしだいに広まり,職業・地位の別なく行われた。日本にも江戸時代にもたらされ,訓点を施したり,翻訳されたりして行われた。
執筆者:小川 陽一
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道教の書。儒仏道の教義に基づいた格(道徳規準)に照らして、自己の行為を採点し、功(善行)と過(罪悪)とに分類して表にする書物で、「善書」(勧善懲悪の書)の一種。感得し撰述(せんじゅつ)した人物によって満点数を異にし、採点の方法も各条ごとのものや、一括提示など異なっている。たとえば、「故(ことさら)に人の性命を傷殺するを百過と為(な)す」(『太微仙君(たいびせんくん)功過格』)、「一功――敬を致し養を尽す。疾(やまい)に侍するに父母の如(ごと)し……」(『功過格輯要(しゅうよう)』)のごとくである。採点記号は、一功が⊖、十功が⊕、一過が×、十過が*などである。功過の語は古く職務上の能力に用いられたが、道徳と結び付けたのは、葛洪(かっこう)(283―343?)の『抱朴子(ほうぼくし)』「対俗篇微旨篇(たいぞくへんびしへん)」が初めといわれる。彼は、天地の神や身中の三尸(さんし)の鬼神が人の罪過に従って奪紀奪算(寿命の減少)をすると説く。金の1171年(大定11)ころに自己採点の又玄子(ゆうげんし)撰『太微仙君功過格』が世に出た。これが現存最古のものであり、仏教の影響などで葛洪以後このころまでに採点の主体が変化した。16世紀の袁了凡(えんりょうぼん)の『陰隲録(いんしつろく)』、雲棲(うんせい)の『自知録』、雲谷(うんこく)の『功過格』が有名である。日本への伝来は不明であるが、江戸時代には広瀬淡窓らの学者や、農民にまで利用された。
[宮澤正順]
『『道教聖典』(1924・世界文庫刊行会)』▽『吉岡義豊著『道教と仏教 第二』(1970・豊島書房)』▽『酒井忠夫著『中国善書の研究』(1960・国書刊行会)』
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…道教研究は戦後急激に開拓されてきた分野で,もちろん道士の専門的修行や儀式などもあるが,むしろ注目したいのは《太上感応篇》などの説く道教的立場よりの倫理説である。徳目など全般に儒教の影響下にあるのは当然であるが,善行悪行を数量化してプラス・マイナスの点数として毎日記録点検して,善にうつることに努めるという功過格の思想は本来道教のものであったという。民衆の内的自己鍛練のための方法として最も重視すべきもので,たとえば商人などをただむき出しの利欲でのみ行動するものと考えるのは早計であろう。…
※「功過格」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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