中国の民間に行われた勧善の書。宋(そう)代以後、庶民社会で展開された信仰や宗教慣行、いわゆる民衆道教の宗教意識に基づいて庶民的道徳運動が進展した。そのなかで庶民(宋代の「凡民(はんみん)」、明(みん)末の「大衆(たいしゅう)」)の立場から善書が作成されると、庶民社会で大いに流通し、現代にまで及んでいる。善書の特徴は、(1)三教合一「儒仏道一貫」「三教帰儒」の庶民的文化・宗教意識が示されること、(2)貴賤(きせん)貧富の別を超えた「凡民」「大衆」としての個々の民衆が、行為の主体者として合理的な宗教道徳意識をもって神に対すること、などにある。
善書の代表的なものは『太上感応篇(たいじょうかんおうへん)』(南宋初)、『陰隲文(いんしつぶん)』(明末)、『関帝覚世経(かんていかくせいきょう)』(清(しん)初)、および多数の「功過格(こうかかく)」(自己の行為を功と過に分類計算して、積善(功)の資とする善書)などである。さらに清代の『敬信録(けいしんろく)』『同善録(どうぜんろく)』などの善書叢書(そうしょ)・類書、民衆道徳を説く嘉言(かげん)集や訓戒書(明の『明心宝鑑(めいしんほうがん)』など)、民衆教化のための勅撰(ちょくせん)書の俗解書(清初の『六諭衍義(りくゆえんぎ)』など)、また宗教結社や民間に流通した「宝巻(ほうかん)」類も、庶民に勧善を説くものは善書のなかに入れてよい。功過格には、もっとも古い『太微仙君(たいびせんくん)功過格』(南宋初作、『道蔵』収)、明末の善書運動の中心人物袁黄(えんこう)(了凡)の『陰隲録』収の功過格、僧袾宏(しこう)の『自知(じち)録』および清(しん)代のものなどがある。
善書のおもなものは、江戸初期から日本に伝えられ、和訳本も流通し、日本の近代化民衆文化に大いに影響した。
[酒井忠夫]
旧中国で行われた勧善の書。身分,職業,資産を問わず,士大夫から一般民衆にいたる広範な層を対象とし,因果応報の理による勧善懲悪をねらい,平易通俗的で具体的な日常の倫理道徳の実践を勧めている。道教や仏教の特定の思想の上に立つものもあるが,多くは明代の思想界と同様に,三教合一の立場に立つ。製作・編纂者は,明・清の郷紳・士人であったと見られる。広範な一般民衆の規範意識と同時に,郷紳・士人層の発想もまた濃厚に反映されている。宋代にはじまり,明末から清初にもっとも盛行し,多様な善書が多く刊行された。その出版形態は,営利目的の一般書と異なり,印刷・配布じたいが善行とされ,自費印刷,無料配布であった。代表的なものに,《陰隲録(いんじつろく)》《袁了凡功過格》《文昌帝君陰騭文》《関世帝君覚世真経》などがある。明末・清初には,各種の善書を集大成することが行われ,《迪吉録(てききつろく)》《勧戒全書》《彙編功過格》《丹桂籍》《同善録》《元宰必読書》などが刊行された。唱導文学である宝巻のなかにも,善書と目されるものが少なからず含まれている。台湾では今でも廟などで善書を無料で配布している。
→功過格
執筆者:小川 陽一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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