日本大百科全書(ニッポニカ)「加速度病」の解説
加速度病
かそくどびょう
乗り物が急停車、発進、急旋回、動揺(いずれも加速度Gで強さを表示)を繰り返すと、加速度の変化によって不快状態がおこる。これを加速度病または動揺病という。航空機の場合には空酔いといい、いわゆる船酔いや他の乗り物酔いも加速度の変化でおこる。宇宙船の軌道飛行中には加速度の負荷はないが、無重量状態で宇宙酔いを生ずる。加速度病の原因は、動揺などの刺激が人体の平衡をつかさどる内耳‐前庭系(直線加速度に反応するのは耳石、旋回など角加速度に反応するのは三半規管)に作用し、自律神経失調をおこすためである。精神緊張や作業責任感なども関係し、操縦士や運転者も他人が操縦や運転をする乗り物では加速度病をおこすことがある。
初期症状として、あくびや生つばが出てくる。続発症状として、むかつき、嘔吐(おうと)、めまいなどの不快感がくる。他覚的には、顔や手足が蒼白(そうはく)となり、冷や汗、血圧低下、脈拍微弱がみられる。重症のときには嘔吐が頻発し、吐物に血が混じったり、昏睡(こんすい)状態になることもあるが死亡することはない。内耳の機能が正常であれば、だれでも加速度病になる可能性がある。
予防としては、航空機の場合は座席の中央部で奥深く腰をかけ、背もたれに頭部を固定して目をつむり、下を向かないようにする。船では進行方向に枕(まくら)を置いて寝る。換気のよくない客室よりも甲板のほうがよいこともある。バスや電車では、振動の少ない車軸の中央部に近いところを選び、進行方向に向かって乗るようにする。乗り物に乗る30分前に抗酔剤(乗り物酔い予防治療薬)を服用する。精神的な緊張感や不安感をなくすくふうも、ときには効果がある。なお、超音速機でも、地球周囲を90分で1周する宇宙船に乗っていても、スピードだけでは加速度病はおこらない。
[横堀 栄]