改訂新版 世界大百科事典 「労働者教育協会」の意味・わかりやすい解説
労働者教育協会 (ろうどうしゃきょういくきょうかい)
Arbeiterbildungsverein[ドイツ]
手工業者協会,労働者協会とならんで19世紀中葉の西欧各地に結成された労働運動の初期段階を画する労働者組織。その掲げる目標は各地域ごとにかなり異なっていたが,大まかにいうと次の二つであった。(1)当時の労働者にしばしば欠如していた読み書き計算の知識,一般的教養を授けること,(2)それと同時に読書,討論等により労働者を政治的に教育すること。これらの目標のいずれが強調されるかによって,労働者教育協会は,非政治的色彩の強い一種の親睦団体と,非公然の革命結社の公然活動団体に大別される。前者は19世紀に広くみられた市民の協会(フェライン,クラブ)と同じ性格をもつといえるが,大半はなんらかの意味で政治的性格をおびており,1848年革命によって集会・結社の自由が与えられると労働者協会Arbeitervereinと改称し,政治・社会的要求を前面に掲げるものも多数あった。また48年革命前の三月前期および革命後のドイツ連邦諸国家のような政治的抑圧体制下においては,労働者教育協会という隠れみののもとに政治結社が延命する場合もあった。革命結社の公然活動団体として最も有名なのは,1840年に結成された在ロンドン・ドイツ人労働者教育協会であり,これは共産主義者同盟ロンドン地区の公然活動組織とみなすことができ,また独自の建物,読書室,図書館を有していた点で模範的な存在であった。以上のことから,労働者教育協会は,のちの労働組合(トレード・ユニオン)ないし革命政党の萌芽形態であったということができるであろう。
執筆者:松岡 晋
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