北の空、おおぐま座の、クマの背から尾をつくる7個の星をいう。7星がひしゃく(斗)の形に見えるのでこの名がある。いずれも2等星内外の明るさで、かつ、ひしゃくの長さが20度角(1度は円周=360度の360分の1の角度)以上に及ぶので容易に知ることができる。α(アルファ)星とβ(ベータ)星を結ぶ線の延長上、α星から両星間の角距離の約5倍のところに北極星がある。北斗七星の天球上の位置は、赤経(赤道座標における経度)12時を中心に、赤緯(赤道座標における緯度)は50~60度あたりにあり、3月ごろは正午に南中し、5~6月ごろには20時に南中する。またα、β、δ(デルタ)、ε(イプシロン)、ζ(ゼータ)星は赤緯が高いため、本州以北では周極星となる。
[大脇直明]
『藤井旭著『春の星座』(1989・金の星社)』▽『NHK取材班著『NHKサイエンススペシャル 銀河宇宙オデッセイ1 太陽系からの旅立ち 母なる星・太陽』(1990・日本放送出版協会)』▽『兵庫県立西はりま天文台編『西はりま天文台発 星空散歩』(1999・神戸新聞総合出版センター)』▽『北尾浩一著『星と生きる――天文民俗学の試み』(2001・ウインかもがわ)』▽『藤井旭著『必ず見つかる星座の本 夜空を直接手ではかる! 1、2、3』(2006・偕成社)』
北極から約30度にあり,斗(ひしやく)形を描くおおぐま座の7星に当たる。中国では7星を天枢,璇(せん),璣(き),権,玉衡,開陽,揺光と呼ぶ。古来,斗柄の指す方角によって時刻を測り季節を定める重要な星であった。また,道教の星信仰の中では,順に貪狼,巨門,禄存,文曲,廉貞,武曲,破軍星と呼ばれ,北極星,司命神信仰と習合して人間の寿夭禍福をつかさどる神とされた。特に,人間の命運は生年の干支で決まる北斗の中の本命星の支配下にあり,北斗神が降臨して行為の善悪を司察し寿命台帳に記入する庚申・甲子の日に醮祭(しようさい)(星まつり)することで,長寿を得,災阨(さいやく)を免かれると考えられた。北斗信仰は早く日本にも流入し,平安時代以来,宮中での四方拝に天皇みずからが本命星を拝しその神名を称えた。また,北斗信仰は密教でも重視され,北極,北斗の本地とされる妙見菩薩をまつる妙見堂が各地に建てられている。
執筆者:麦谷 邦夫 民間でも宮中の四方拝にならって星供養を行い,今も〈ほくとさま〉〈ひちじょうさま(七星さま)〉などの名が残っている。文学には《和漢朗詠集》はじめ,詩歌俳句に歌われ,浄瑠璃では近松の《曾根崎心中》の道行の名文が聞こえている。辞書,節用集の類には,北辰と並んで載せ,たとえば安永の諸国方言集《物類称呼》には,〈北斗,ほくと,うごく星なり,東国にて七曜のほしと称す,また,四三の星ともいふ〉とある。これが航海の指針としてたいせつな星であることは昔も今も変りがない。
執筆者:野尻 抱影
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…北斗七星の第一星から第四星までをいう。中国では文章をつかさどる神とされ,俗に奎星(けいせい)と称される。…
…中国において,本来,北斗七星の魁(かい)(桝(ます)の部分)の上方にある星座文昌宮六星の第4星を司命という。古来,人間の寿命をつかさどる天神と考えられ,《楚辞》九歌には大司命,少司命の2神が見え,文昌宮第5星の司中,第6の司禄とともに祭祀の対象とされた。…
…中国の星座の名称は朝廷の組織や官名になぞらえたものが多く,星座の体系の原型が成立した前5~4世紀の戦国時代の諸国や動物などによって命名したものもあって,中国の社会や文化の特徴が反映されている。初期の時法と結びついた北斗七星などは古くから注目され,また《詩経》に現れる星座のほかに,四季の目印とされた鳥(うみへび座α),火(さそり座α),虚(みずがめ座β),昴(ぼう)(おうし座プレヤデス=すばる)のような星や星座も《書経》に見える。赤道帯に沿った二十八宿の星座体系も前8~6世紀の春秋晩期には成立していたが,4世紀に魏の石申,斉の甘徳らによって星座が体系化された。…
…苦行を修し,空中飛行,千里眼などの超能力をそなえ,ふだんは温厚であるが,ささいなことで激しい怒りを発し,雨を降らせないなど,国中を困窮に陥れることもあるという。詩聖として有名なのは〈七詩聖〉(サプタルシ)で,北斗七星になぞらえられている。その7人は,《シャタパタ・ブラーフマナ》によれば,ガウタマ,バラドバージャ,ビシュバーミトラ,ジャマッドアグニ,バシシュタ,カシヤパ,アトリであり,《マハーバーラタ》によれば,マリーチ,アトリ,アンギラス,プラハ,リトゥ,プラスティヤ,バシシュタである。…
※「北斗七星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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