妙見菩薩の略。北極星を神格化したものといわれ,国土を守護し,災厄を除き,福寿を増益するという菩薩。尊星王,北辰菩薩ともいう。形像は一定しないが,二臂像,四臂像の形で,雲中に結跏趺坐する姿,青竜に乗る姿などに描かれる。天台宗園城寺(三井寺)では吉祥天と同体と説く。これを勧請し延命や除災,とくに眼病平癒のため修する法を北斗七星法という。日本の妙見信仰は平安時代すでに行われていたとみられ,《日本霊異記》には妙見神が霊験を現した話が収められている。妙見菩薩が異形を現じて盗人をあらわしたという話と,海に漂流していたとき妙見菩薩を念じて助かった話がそれで,その信仰はかなり広まっていたとみられる。中世には武士の守護神として敬われ,千葉氏,相馬氏,大内氏など地方の豪族たちによって信仰されたが,これは北斗七星中の第七星が破軍星と呼ばれるところから,弓箭の神として崇拝されたことによる。鎌倉時代の末期に,日蓮宗が千葉氏の帰依を受けると,法華経寺(現,千葉県市川市)に妙見神が守護神として勧請され,寺領が寄進された。仏教信仰に属する妙見信仰が,妙見宮に鎮守神としてまつられるようになったのは,このころからであろう。その後,日蓮宗の寺院に多くまつられ,近世初頭に勧請された大阪府豊能郡能勢町にある真如寺の妙見堂は,〈能勢妙見〉として広く名を知られている。現在の日蓮宗では,《法華経》を擁護する善神の一つとして,確かな地位を得ている。東京都墨田区業平にある法性寺は,境内の妙見宮が柳島の妙見として有名で,江戸の町人から熱狂的な信仰を集めた。妙見宮の前には影向松(ようごうのまつ)があり,妙見神がこの霊樹に降臨した日(1年に12回)には参詣者でにぎわった。日蓮宗寺院では毎月朔日(ついたち)が縁日とされ,洗米,神酒,菓子,花などを供えて,七星九曜二十八宿を供養することが行われ,星祭と呼ばれている。なお,現在も妙見社の多く分布する相馬地方では,勝善神と習合して牛馬の守護神となっており,熊本県八代市の妙見宮には中国より漂着したという伝説が伝わり,熊本県下の妙見社は水神的要素が強い。妙見社をまつる地域でカメを飼わないとされているのは,四神のうち北方守護神が,カメとヘビの合体した玄武であることによる。
→北極星
執筆者:中尾 尭+佐野 賢治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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