改訂新版 世界大百科事典 「北海道ウタリ協会」の意味・わかりやすい解説
北海道ウタリ協会 (ほっかいどうウタリきょうかい)
正式名称は〈社団法人北海道ウタリ協会〉。アイヌ民族の社会的地位向上を目的に活動するアイヌ民族最大の組織として,北海道在住のアイヌの世帯員で構成する北海道知事認可の社団法人。理事22~27人,監事2~3人,市町村単位に51支部,5支庁に支部連合会を持つ。2006年9月1日現在,支部会員の総数3927人を登録,その家族員を含めると1万3040人で構成される。
1946年2月,静内町(現,新ひだか町)で,アイヌ民族の向上発展,福利厚生を活動の目的に掲げて設立総会を開催し,同年3月,〈北海道アイヌ協会〉として法人登記した。5月に,新冠御料(にいかつぷごりよう)牧場をアイヌ3500戸に下付するよう道庁長官に陳情し,同月,旭川市近文アイヌ共有地の返還運動を展開したが不成功に終わった。翌47年5月,〈自作農創設特別措置法〉改正に伴い,北海道旧土人保護法によりアイヌに下付された土地の適用除外措置を,道・国や連合国総司令部(GHQ)などに要望したが成就しなかった。設立数年後,組織の維持が困難となり活動は停滞し,活動再開は60年の再建総会以後となった。翌61年には,〈アイヌ〉という用語を和人が侮蔑的な意味で使用しているため,入会者が心理的抵抗を受けるとして,アイヌ語で〈同胞・仲間〉の意味の〈ウタリ〉を組織名に採用した。以来,アイヌ民族の地位の向上を目的に各種事業の実施に取り組む。80年ころから,民族的アイデンティティの基盤となる文化伝承活動にも重点をおき,84年から,〈アイヌ民族に関する法律〉制定運動に取り組んだ。87年から,国連の先住民族の人権関連会議などに毎年参加,国連における先住民族の人権システムの伸展と法律制定運動が同時に進捗,相互に連動する効果をもたらした。その結果,97年,社会的・経済的側面が欠落し,要望していた総合法制定とはならなかったものの,文化に限定された〈アイヌ文化振興法〉の制定となった。同法は,アイヌ民族の存在を認識し,同化主義からの決別を意味するものであり,その趣旨を反映した今後の運用が期待されている。国連では〈先住民族の権利宣言〉が2007年総会で採択の見込みとなり,同協会では,各種国際人権条約と憲法98条2項の効力関係などに倣いながら〈アイヌは日本の先住民族であるとの政府の認知〉と国内でのアイヌ民族の総合的施策の拡充につながる〈国レベルでの新しい審議機関の設置等〉の取組みなどを検討,要望している。
→アイヌ
執筆者:佐藤 幸雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報