改訂新版 世界大百科事典 「医療扶助」の意味・わかりやすい解説
医療扶助 (いりょうふじょ)
生活保護法により生活困窮者に対して行われる7種の扶助のひとつで,生活扶助と並んでその主要なものとなっている。扶助の給付は,指定機関(大半の病院・診療所が指定機関となっている)と,本法にもとづいて設立される医療保護施設が,現物給付によって行う。原則として国民健康保険の診療方針および診療報酬にしたがっており,ほぼ社会保険と同水準の給付が受けられる。さらに加えて,必要最小限度とはいえ,たとえば義肢,松葉づえなど治療材料,老人性白内障手術後の眼鏡,あんま・マッサージ,はり・きゅうの施術,看護料・移送費の支給その他が認められている。その実施については福祉事務所現業員などのための〈医療扶助運営要領〉があり,その運営とくに入院の要否の判定などのため都道府県・指定都市に〈医療扶助審議会〉が設置されている。医療報酬の医療機関への支払は〈社会保険診療報酬支払基金〉に委託して行われる。近年では医療扶助費は保護費総額の約60%となり,かつては生活扶助費の割合が高かったが,1953年から逆転している。また医療扶助受給者数も被保護者総数の70%を超している。このことは,貧困と疾病の悪循環を断ち切るための日本の医療保障制度の不十分さを表しているといってよい。たとえば医療費無償をたてまえとするイギリスの国民保健サービス制度では,処方箋料,入院中の食費・暖房費,義歯・眼鏡・義足などには一部自己負担額が存するが,日本の生活保護に当たる補足給付では受給者のこの自己負担額を給付しており,これが日本の医療扶助に該当すると考えてよい。しかし,その額はきわめて小さく,補足給付総額のわずか10%足らず(人員でも8%)となっている。70%を上回るという日本との差が明らかである。もっともイギリスでも,医療保障制度の整備されていなかった1942年には,居宅保護のうち疾患・障害の者の数は大きく59.9%に及んでいた。これを見ても,日本でも画期的な医療保障施策確立の必要性が痛感される。
→医療保障 →生活保護
執筆者:小沼 正+三浦 文夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報