千体仏の略で,ほぼ同形同大の仏像を数多く配列した彫刻や絵画をいう。その起源はインドにあり,大乗仏教の成立に伴いしだいに発展した千仏思想が具象化されたものである。アジャンター,エローラなどの石窟寺の内部に千仏像が絵画や彫刻で表されている。それが西域から中国,朝鮮を経て日本にも伝えられた。敦煌,雲岡,竜門などの石窟寺にその好例を見ることができる。日本では法隆寺の《玉虫厨子》の内壁や扉,奈良長谷寺の《銅板法華説相図》が7世紀の好作例である。ともに豆粒ほどの千仏が押出仏(おしだしぶつ)で造られ貼付されている。飛鳥・奈良時代の寺院でもその堂塔の内壁に塼仏(せんぶつ)や押出仏の千仏が荘厳(しようごん)されていたことは発掘出土遺物からわかる。しかし後に壁画や板絵の千仏に移行,変化する。大きさに諸種はあるが,1尺から1寸くらいの,木彫の千体阿弥陀,千体薬師,千体観音,千体地蔵などが平安時代からある。これらは造像功徳を願ったもので,興福寺の観音立像や元興寺極楽坊の地蔵立像(丸彫,板彫2種)などが名高い。絵画では三世三劫三千仏といわれる画幅があり,これは《三世仏名経》にもとづくもので,過去(釈迦),現在(弥陀),未来(薬師)の三世仏を中央に大きく描き,周囲に小千仏を配している。中世以降の作品が多い。光背や仏身(著衣)に千仏像を表現する例もあるが,これは化仏(けぶつ)と呼ばれている。千仏は無数の仏の出現を意味し,インドの多神教的信仰の仏教的な現れといえよう。
執筆者:光森 正士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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