西部インド,アウランガーバードの北西約25kmのウェールレー村の東のなだらかな丘の西麓に,約2kmにわたって仏教,ヒンドゥー教,ジャイナ教の石窟が並ぶインドの代表的遺跡。南端の第1~12窟が仏教窟で,7~8世紀のもの。第10祠堂窟の外観は僧院窟に近くなり,内部の仏塔(ストゥーパ)は前面に大きな仏像を刻んでいる。僧院窟では房室が少なくなり,第2窟や3層になる第11,12窟は仏殿としての性格が強く,末期の様相を示している。第5窟は,細長い広間の床面に2筋のベンチ状のものを掘り残していて,講堂であったとも推測される。随所に多臂(たひ)像や女性像など密教系尊像が見られるのも,末期の仏教窟の特徴である。第13~29窟および丘の上の番号のない20以上の小窟はヒンドゥー教に属し,主要なものは7~9世紀,小窟はさらに後の開掘である。その中心をなす第16窟カイラーサナータ寺は,パッタダカルのビルーパークシャ寺Virūpākṣaを模したラーシュトラクータ朝盛期(8~9世紀)の岩石寺院で,幅45m強,奥行き85m弱にわたって岩山を削り取り,楼門,ナンディン牛堂,前殿,本殿(高さ約30m)を彫り出し,しかも周囲の岩壁に回廊や付属の石窟を掘っていて,その規模の点でも彫刻の作柄の点でも他に比類がない。このほかでは簡素な第14窟,重層の第15窟,壮麗な第21窟,広大な第29窟などが重要である。これらの石窟を飾る彫刻は,グプタ朝後期の作風を保ちつつ,チャールキヤ,パッラバ両朝の影響を強く受けたヒンドゥー教美術の最高傑作である。北端の第30~34窟は8~10世紀のジャイナ教窟で,第32窟が最もできが良い。しかし彫刻は全般に生硬さが目だつ。なおカイラーサナータ寺の前殿天井,第32窟上階天井,滝の上の小窟などには壁画ものこっている。(図)
執筆者:肥塚 隆
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インド、オーランガーバード市の北西20キロメートルにある中世初期の石窟(せっくつ)寺院群。現在マハラシュトラ州に属し、エローラ村の東方に南北に連なる岩山の斜面に約2キロメートルにわたり、主要窟34、その他いくつかの小窟よりなる。第1窟から第12窟は仏教で7世紀、第13窟から第29窟はヒンドゥー教で7~8世紀、第30窟から第34窟はジャイナ教で9~12世紀につくられ、インドのおもな宗教を網羅している。全窟中建築的にもっとも興味深いのは第16窟の「カイラーサナータ」で、これは石窟ではなく、巨大な岩塊を岩山から切り離して彫り削った単一石の寺院建築である。その大きさは間口約49メートル、奥行約85メートル、高さ約30メートルもある。どの窟も壁面は彫刻で埋められ、なかでも第14~16の諸窟はヒンドゥー教彫刻の傑作で、ここにはヒンドゥー教のあらゆる神像がみられる。また第34窟のジャイナ教の彫像にも優れたものが多い。これらの石窟群は1983年に世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。
[永井信一]
古代インドの石窟遺跡。マハーラーシュトラのアウランガーバードの北西32kmの地。4世紀から仏教石窟,7~8世紀にヒンドゥー教の大石窟が開掘された。とりわけシヴァを祭ったカイラーサ寺院は最大のもので,丘を削ってつくった建築と壁面の数多い神々の彫刻とは優れ,ラーシュトラクータ朝の代表作である。9~12世紀にジャイナ教の石窟もつくられた。
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…中世前期になると仏教はしだいに衰微し,ヒンドゥー教美術が全盛期を迎えた。ヒンドゥー教の造形活動は,まず南インドで6~8世紀にチャールキヤ,パッラバ,パーンディヤの3王朝のもとで活発化し,次いでラーシュトラクータ朝治下にエローラで大規模な石窟が造営された。北インドでは諸王朝の分立が続き,オリッサ地方やカジュラーホに高大な石積み寺院が造られた。…
…パーンディヤ朝ではカルグマライの岩石寺院(8世紀)があげられる。エローラのヒンドゥー教石窟(7~9世紀)は,チャールキヤ,パッラバ両朝の建築技法を継承発展させたもので,とくに第16窟の岩石寺院カイラーサナータ寺(8世紀中期~9世紀中期)はヒンドゥー教寺院の最高傑作である。同じ頃の造営の(異説もある)エレファンタ石窟も傑出している。…
… 王国の統治組織,行政機構については必ずしも明らかではないが,中央集権的な機構はなく,むしろ,各種の地方自治組織が発達していたと考えられる。王国の指導者には,文芸,宗教を保護する者もあらわれ,とくに第2代クリシュナ1世Kṛṣṇa Iはエローラのカイラーサナータ寺院を窟造したことで有名であり,また,60余年におよぶ長期間王座にあった第6代アモーガバルシャ1世Amoghavarṣa Iはジャイナ教と土着文学を保護し,王国の学芸興隆に大きく寄与した。【重松 伸司】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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