光背(読み)コウハイ

デジタル大辞泉 「光背」の意味・読み・例文・類語

こう‐はい〔クワウ‐〕【光背】

仏身から発する光明をかたどった、仏像背後にある飾り。頭部のものを頭光ずこう、身体部のものを身光しんこうといい、中国日本ではこの二重円光式を主体とする。さらにその周縁火焔かえんを付し、全体を蓮弁形にすることが多く、これらを併せて挙身こしん光という。御光ごこう後光ごこう
[類語]後光光輪円光

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精選版 日本国語大辞典 「光背」の意味・読み・例文・類語

こう‐はいクヮウ‥【光背】

  1. 〘 名詞 〙 仏の超人性を形容して、仏身が光明に輝くのを、仏像の背後の光明としてあらわしたもの。仏教諸尊像にひろく用いられる。頭光(ずこう)身光(しんこう)にわかれる。身光は頭光と合わせて二重円光を形成し、全体を蓮弁形とするのが例で、その形状によって、舟形光背(舟御光)、飛天光、線光、傘御光、忿怒尊の火焔光などがある。後光。御光。
    1. [初出の実例]「止利仏師の作れるよし、其光背に記したれば、此仏像も同人の作ならんか」(出典:随筆・筱舎漫筆(1841頃か)一五)

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改訂新版 世界大百科事典 「光背」の意味・わかりやすい解説

光背 (こうはい)

後光,御光ともいい,仏菩薩の放つ光明を象徴するもので,仏教彫刻や仏教絵画においては必ずこれが表現されるのはインド以来の伝統である。仏の光明は色光と心光とに分けられる。色光とは仏身より外に向かって発せられる光,つまり身光である。心光とは仏にそなわる智徳円満の光,すなわち智恵光である。仏は内に智徳が充満することによって,おのずから外に光輝があらわれると考えられた。仏像仏画に表現されるのは色身相としての光明である。この身光にまた2種あり,一つは常光,一つは放光といい,常光は仏身につねに存在する光明,放光は仏の神通威神の力により必要によって随時放たれる光明という。これら仏の光明は仏身の頭頂から足下にいたる仏の全身から発せられ,一つ一つの毛穴からも光明が出ると説かれるが,わけても眉間の白毫(びやくごう)や胸卍(むねまんじ)相から出る光明は,頭光や身光の光心とされる。経説において項(うなじ)の円光,挙身光の名称がすでに用いられているが,現存する仏菩薩像の光背も頭光と身光との二つに大別される。頭光が円相の形式で表現されるのはインドのガンダーラマトゥラー釈迦像にもみられ,光背として最も古い形式を伝えるものである。

 日本の仏菩薩,天部明王像などにみられる頭光は次の6種に大別される。円相光,輪光,宝珠光,輪宝羯磨(かつま)光,筋光,火焰光。このうち円相光を例にとってみても,円相内に重圏文,放射光文,櫛目文,流水文,蓮華文などを作って光明相をさまざまな形で表現している。この頭光と身光とで形づくられるのが挙身光である。この挙身光もその形によって次の4種,二重円相光,舟形光,円相光,火焰光に大別される。二重円相光は雪だるまのように円形の頭光と身光とが重ねられるもので,最も普通にみられる。この二重円相光を主体としてさまざまな縁どりがなされることによって,壺形を示したり,舟形あるいは蓮弁形と称される挙身光背が生まれる。円相光は仏像全体を円相で包み込む形を示すが,このなかにさらに頭光を円相で示すものもある。

 仏の光明を表現する光背の発生を考えるには,インドにおける光明思想の探究が必要であるが,人類がうける光の発光体の根元は太陽であり,月であり,また灯火やたき火である。形のない光を具象化することは大変困難なことであるが,これをみごとに具象化し象徴化したのが仏像の光背である。日本の仏像の光背もたんに仏の光明を表現するだけでなく,そこに多くの意匠的な工夫がこらされてより修飾的方向に発展し,仏を荘厳する目的がこめられるようになる。こうして仏徳の本来的表現から仏徳の讃嘆へと移り,光明そのものの表現が忘れられてくる。また,光背の文様として蓮華文,宝相華文,塔,宝珠,輪宝,三鈷(さんこ),羯磨,飛天,迦陵頻伽(かりようびんが),化仏(けぶつ),化菩薩,種子,鏡などが修飾的に付加されることとなり,光背はそれを負う仏格によりさらに変化が生まれた。
執筆者:

ヨーロッパ諸語では,ニンブスnimbus(ラテン語),ハイリゲンシャインHeiligenschein(ドイツ語),グローリーglory(英語)などという。光背は,キリスト教図像では聖性の表徴として,天上の光栄の反映のごとく神,神的人格,または聖人の頭部を囲む円輪形または円盤形で,多くの場合,黄金色でいろどられる。すでに古代異教世界において存在したもので,ことにヘレニズム時代のオリエントやローマ時代の作例において神々などに付加されている。2世紀よりキリスト教図像に現れ,すでに3世紀にキリストはほとんどつねに頭部の光背を付けて示され,5世紀には聖母はもちろん,使徒たちにも光背を採用し,キリストは十字形を付加した光背をもって彼らと区別される。その後,光背の使用はさらに広げられ,6世紀には天使,諸聖人にも付けられる。特殊例として方形光背が8~9世紀,とくにイタリアにおいて生存中の高僧ら(ときに帝王)の肖像に用いられた。なお光背は頭部の円輪形のみにとどまらず,キリストまたは聖母の場合には,しばしば全身を包む楕円形の身光(オレオールauréole(フランス語)またはマンドルラmandorla)が付加される。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「光背」の意味・わかりやすい解説

光背
こうはい

仏像の背後にあって、仏身から発する光明を表現したもの。後光(ごこう)、御光(ごこう)ともいう。仏の超人性を形容した三十二相のなかに、仏陀(ぶっだ)の額の中央にある白く細い巻き毛から光を発する白毫光(びゃくごうこう)と、仏体が金色でその光が周囲に満ち満ちていることが説かれている。この白毫光が頭光(ずこう)の、仏身金色の相が身光(しんこう)のもととなった。インドで仏像がつくられた早い時期には、無文の円板状か、その縁に円弧(光明の象徴)を連ねた簡単な頭光だけのものであったが、その後、全体が楕円(だえん)状の身光形のものも生まれ、表面に花や唐草(からくさ)を表した文様を付するようになった。中国に入ると、その形式や文様はさらに複雑になり、頭光・身光をあわせた二重円光背を中心に、その周囲に火焔(かえん)を表して、尖端(せんたん)のとがった宝珠(ほうしゅ)形の光背をつくりだし、また飛天(ひてん)・化仏(けぶつ)などを付した変化のある発達を遂げている。光背は儀軌(ぎき)(仏の供養などの修法(しゅほう)に関する規則)のうえからは荘厳(しょうごん)具ではないが、造像法のうえからは荘厳具に含めて考えられている。

 こうした光背はキリスト教美術でも行われており、「聖なる存在」の象徴として頭部に丸い輪または板状の光を付する。これはニンブスnimbusとよばれるが、キリストや聖母のようにとくに聖性を示すべき場合には、全身を包んだ楕円状の身光オーレオールaureoleが付加されることがある。

[佐藤昭夫]

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百科事典マイペディア 「光背」の意味・わかりやすい解説

光背【こうはい】

俗に後(御)光ともいう。仏像の荘厳具の一つ。仏の身体から,知恵の象徴として発する光をかたどったもの。頭部にだけつくものを頭光(ずこう),体全部をとりまくものを挙身光(こしんこう)という。頭光にはその形から輪光,円光,宝珠光,放射光(傘(かさ)御光)などがあり,挙身光では,舟形光,二重円光,飛天光などがよく知られる。不動明王像などでは火炎そのものの形を光背としている。
→関連項目院尊鎌倉彫透彫山口大口費

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「光背」の意味・わかりやすい解説

光背
こうはい

後光 (ごこう) ,円光,輪光などともいう。仏身から発する光明を象徴化したもので,キリスト教美術の光輪にあたる。頭部の光明を頭光 (ずこう) ,身体部のものを身光,両方の重なったものを挙身光 (きょしんこう,こしんこう) ,二重光背などという。おもに銅,木で造られ,板のままのもの,透かし彫の文様のあるもの,鍍金や漆箔押しのもの,彩色したものなどがある。光背の外側の部分を縁光といい,縁光内に表わされる意匠文様によって唐草光,飛天光,千仏光,火炎光などに分類される。また形のうえから蓮弁形挙身光,宝珠形頭光などの別がある。

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世界大百科事典(旧版)内の光背の言及

【荘厳具】より

…(1)はさらに2種に分けられ,(a)仏身の荘厳具(著衣と装身具)としては,如来では袈裟と裙(くん)(裳),菩薩では天衣,条帛,裳と,宝冠,耳飾,頸飾,胸飾,瓔珞,腕臂足の鐶釧など,天部では甲冑,下衣,肘当,脛当,裳,袴,天衣,沓,それに宝冠など,明王では条帛と裳,ほかに金線冠,鐶釧などがみられる。(b)仏身を離れた荘厳具としては,光背と台座,それに天蓋がある。建造物に直属しない小型の厨子や宮殿などもこれに含めることができよう。…

【仏像】より

…それも上記のように場合によって異なるなど,さまざまな展開を示した。
[荘厳具]
 こうした仏教の諸尊像は,身につける物のほかに,像の背後にあってそれを飾る光背,像の下にあってこれを保持する台座,像の上に懸けられる天蓋などの荘厳具(しようごんぐ)を持つのが普通である。光背は,仏像発生の初期には,仏の発する光明を具象化する意味で,仏像の頭部の背後に付せられた円形のみであったが,だんだん複雑,華麗な形式をつくり出すようになり,日本の場合,多く頭部,体部それぞれの背後に円相が当てられ(二重円相),その基部に光脚,周縁に火焰や唐草などの文様帯をあしらった二重円相光が基本とされるようになった。…

※「光背」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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