単一の波長、あるいは振動数だけをもった光。普通はその周りに多少の広がりをもった光をさす場合が多い。単色性と位相とは関連しているので、完全な単色の場合には、波の位相まで決めることができる。位相関係のそろった光をコヒーレント光という。
以前には単色光として用いられた光、たとえば水銀の緑線(e線。波長546.1ナノメートル)でも、同位元素や核モーメントの影響で広がっているので単色ではない。そのため198Hg(水銀のアイソトープの一つ)だけの水銀灯が用いられた。レーザー光ができてからは、単色光が簡単に得られるようになった。とくに単一モード連続発振レーザーでは、ほとんど完全な単色光が得られる。光ファイバー通信では、単色光の位相選択による多重通信やデジタル・コヒーレント通信も可能になった。
自由な原子や分子から放射される光は、それらの不連続なエネルギー準位間の遷移によるものなので、多種類の単色光の集まりといえる。しかし、エネルギー準位には自発放射による寿命があるので、量子力学的な不確定性原理によるエネルギーの広がりをもっている。そのため、スペクトル線は自然幅とよばれるある幅をもっている。そのほかに原子・分子の熱運動によるドップラー効果による広がりもある。したがって完全な単色光の集まりとはいえない。
白色光のような波長領域の広い連続光源からある特定の波長の光だけを取り出す装置をモノクロメーターとよぶ。得られるのは近似的な単色光(準単色光)で、単色性はほとんど光学系の精密度とスリット(すきま)の幅によって決まる。光電的な検出器と組み合わせ、波長走査をすることによって、スペクトルの強度分布を求めることができる。また、試料の吸収による強度分布の変化から吸収スペクトルを測定するのに用いられる。
[尾中龍猛・伊藤雅英]
単一の周波数からなる電磁波。可視光についてのみいう場合もある。現実には完全な単色光は実在せず,周波数にある程度の幅をもっている。なぜなら無限に続く電磁振動はありえず,その寿命をτとすると,電磁波のスペクトルは⊿ν≅1/2πτ程度の周波数の幅をもつからである。回路によって単一周波数の電波を発生させようとしても,同時にいろいろな周波数の雑音電波の発生は避けられない。共鳴器などを用いてこれを除去するにしても損失のない共鳴器はつくれないから,そのQ値も有限であり,ν/Q(νは共鳴の中心周波数)程度の幅の中に入る雑音エネルギーは除去できない。原子や分子の励起状態から放出される自然放出光についても,その周波数には励起状態の寿命の逆数に相当する幅が存在する。可視光に対しては,励起状態の寿命はふつう10⁻7~10⁻9sであるので,かなり単色性がよいように見えるスペクトル線でも,少なくとも107Hz程度の幅をもっていることになる。
連続スペクトルをもつ光から単色光をつくるには,プリズムや回折格子など分散性をもつ器具に一度光をあて,周波数(波長)の違いを伝搬方向の違いに変換し,その先にスリットなどをおいて,一部の周波数成分のみをとり出す。ただし,このような方法によれば,単色性をよくするほど光のエネルギーが小さくなるのはもちろんである。誘導放出を利用するレーザー作用は,強い周波数成分が,ますます強くなる一種の自己増殖過程である。この場合にも熱雑音,あるいは自然放出による雑音は避けられないが,出力光のスペクトル幅は出力が大きくなるほど小さくなる。これは分散系を用いた単色光をつくり出す場合とはまったく相反する性質で,レーザーによれば可視光領域で1Hz程度のスペクトル幅をもつ単色光をつくることも不可能ではない。
執筆者:清水 忠雄
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単一の振動数の光.レーザー光や原子のスペクトル線がこれに近い.実際の光には必ず線幅があり,純粋な単色光は存在しないが,理論的な取り扱いではよく現れる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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