翻訳|prism
光学的に滑らかに研磨された互いに平行ではない平面を二つ以上もつ透明体のこと。分光器に用いて光のスペクトルを得るための分光用プリズムを意味する場合が多い。また、反射によって光線の方向を変えたり、像を倒立させたりする素子は全反射プリズム、偏光を分離するためのものは偏光プリズムとよばれる。
入射光線の方向からより大きく振れる。すなわち偏角が大きい。偏角は、同じ色の光でも入射角によって変わり、入射角(入射面に立てた法線と入射光線のなす角)と出射角(出射面の法線と出射光線のなす角)が等しいときに最小となる。これを最小偏角という( )。この場合、プリズム材料の屈折率をn、プリズムの頂角をα、最小偏角をδmとすると、次の関係式が成立する。
は分光用プリズムの断面で、矢印で光線の進む方向を示す。屈折率は光の色すなわち波長によって異なっているので、白色光をプリズムに通すと、異なる色の光が異なった方向に出射されてスペクトルに分散する。紫色光は赤色光より一般に屈折率が大きく、出射光線の向きは、
したがって、頂角と最小偏角を測定すると、プリズム材料の屈折率を求めることができる。普通、プリズムを用いて分光器をつくるとき、なるべく最小偏角に近い状態で使用する。これは、そのときに分光器としての分解能もいちばん大きく、また発散光線に対する収差もいちばん小さくなるからである。
[尾中龍猛]
分光用プリズムには二等辺三角形型のプリズムのほか、30度直角プリズムや四角形の定偏角プリズムなどがある。また、左右旋光性の違う結晶水晶でできた30度直角プリズムを2個背中あわせに接合したコルニュ・プリズム、屈折率と分散能の違う2種のガラスプリズムを3個または5個組み合わせることによって、光束の進行方向はほとんど変えないでスペクトル分散が得られる直視分光器用アミチ・プリズムなどがある( )。
[尾中龍猛]
プリズムは分光目的以外にも用いられる。光線の方向を正確に変えたり、望遠鏡の倒立像を逆転させて正立像を得るためのプリズムなどがある。前者の例としては直角プリズムとコーナー・キューブ、後者の例としてはダハプリズムや五角プリズムなどがある( )。
[尾中龍猛]
このほか、直線偏光をつくるニコル・プリズムやロション・プリズム、直線偏光を円偏光に変換するフレネルの菱(ひし)形プリズム( )などが知られている。
[尾中龍猛]
『I・ニュートン著、島尾永康訳『光学』(1983・岩波書店)』
アメリカ国防総省国家安全保障局(NSA:National Security Agency)の通信監視・傍受プログラムの一つ。インターネット企業のサーバーに接続し、電子メール、書類、写真、動画、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での投稿をはじめ、サービス利用の履歴などの個人情報を常時監視し、必要な情報を収集する。プログラムへのアクセス権限のあるNSA担当官がパソコンから調査対象を情報検索すると、調査対象企業が設置している特殊なサーバーを介して必要な情報が提供される仕組みになっているといわれる。調査対象企業のサーバーには、FBI(連邦捜査局)のデータ傍受技術ユニットを通じて接続され、接続したサーバーのほぼすべての情報にアクセスできる状態で常時監視が行われるという。アメリカでは外国情報監視法や愛国者法(反テロ法)により、外国人やテロリストを監視するため、政府に通信データを収集、分析する権限が与えられている。
2013年6月にCIA(アメリカ中央情報局)の元職員が、NSAの極秘諜報(ちょうほう)活動を暴露し、プリズムを使った情報収集が国際問題に発展した。情報収集の対象となっていたのは、マイクロソフト、グーグル、ヤフー、フェイスブック、アップル、AOL、ユーチューブ、スカイプ、パルトークなど、世界中に数億人規模の会員を有するアメリカの大手IT企業であった。NSAでは、年々、プリズムを使った情報収集への依存度が高まっているとされる。また、公開されたプリズムの関連資料からは、電子メールアドレスから個人情報の収集や閲覧ができる、エックスキースコアXkeyscoreというシステムの存在も明らかになっている。
[編集部]
滑らかに研磨された平行でない平面を二つ以上もつ透明体。用途により,分散プリズム,偏角プリズム,偏光プリズムなどがある。ギリシア語およびラテン語のprismaに由来し,原義は〈削る〉。起源については明らかでないが,多くの稜をもつガラスに光を入射させるとスペクトルが得られることは古くから知られていたようで,1世紀にL.A.セネカが書いた《自然の研究》にもこのことが述べられている。プリズムに関してはニュートンが行った太陽光によるスペクトルの実験が有名で,彼は第1のプリズムによって得られたスペクトルを第2のプリズムを通すと再び白色光となることから,それぞれのスペクトルはもともと太陽光に含まれており,これらが集まって白色光となることを明らかにした。
(1)分散プリズム 分散,すなわち透明体の屈折率が波長によって異なることを利用して光とスペクトルに分けるもの。研磨した二つの側面をもつ三角柱状のものがもっとも多く,分光器,分光計,屈折計などに用いられる。稜に垂直な平行光線束をプリズムに入射させると,屈折を2回受けて,射出光は入射光と異なる方向に進む。入射光と射出光のなす角は偏角と呼ばれ,プリズムの屈折率n,頂角Aおよび光の入射角の関数である。透明体の屈折率は一般に波長とともに減少するので,偏角は短波長側で大きく長波長側で小さい。そのため白色光を入射させると鮮やかなスペクトルが得られる。一定波長の光に対してはプリズムの第1面への入射角と第2面からの屈折角が等しいときに偏角が最小値δmin(最小偏角という)をとり(図1),の関係式が成り立つ。この関係は分光計によって光学ガラスなどの光学材料の屈折率を精密に測定するのに用いられる。分散用のプリズムにはA=60°のものがもっとも多い。すべての波長に対して一定の最小偏角をもつ定偏角プリズム(アッベのプリズムなど)も用いられる。材料としては,可視光に対しては分散の大きいフリントガラス,紫外線に対しては水晶や蛍石,赤外線には岩塩や臭化カリウムなどの結晶が用いられる。プリズムの底辺の長さをt,光の波長をλとすると,分解能は,で与えられ,回折格子や干渉計に比べてかなり小さいが,次数の異なるものはなく,ゴーストもないのでラマン散乱などの強度差の大きい分光測定などに利用される。
(2)偏角プリズム 光線束の方向を変えたり,像を正立させるのに用いるもので,全反射を利用する場合が多い。図2に示したのは頂角が90°の直角プリズムを用いて,1回の全反射を利用して方向を90°変える場合と2回の反射によって180°変える場合である。金属鏡に比べ,反射率が高く,表面の汚れを取り除くのが容易である。像の倒立を打ち消す例を図3に示す。これは2個の直角プリズムを組み合わせたものでポロプリズムと呼ばれ,進行方向を変えることなく像の上下,左右を反転させるので,双眼鏡に多く用いられる。図4は直角プリズムの直角をなす頭部が切り取られた形のドーブのプリズムである。図の配置によると,物体の上下関係は反転するが左右関係はそのままなので,プリズムを光線を軸に回転すると,物体はその2倍の角度で回転することになる。
(3)偏光プリズム 結晶の複屈折を利用して直線偏光を作るプリズムで,方解石や水晶などを光学軸に対して適当な角度に切断研磨したものを組み合わせて作る。ニコルプリズム(図5),グラントムソンプリズム,ウォラストンプリズム,ロションプリズムなどがある。ニコルプリズムは,方解石から作った同形の2個のプリズムをカナダバルサムで接合し,接合面で全反射された常光線を側面で吸収させ,異常光線だけを取り出して使用する。偏光プリズムの特徴はポーラロイド(商品名)と比べて波長特性がフラットで透過損失がないばかりでなく,取り出した直線偏光の純度が高いことである。
執筆者:鶴田 匡夫
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