行使の目的で印章・署名を偽造したり、印章・署名を不正に使用、または偽造した印章・署名を使用する罪(刑法164条~168条)。日本の社会では印章・署名は、役所の書類、契約書などのように、人の同一性(本人であること)を証明する手段として広く用いられ、重要な役割を果たしている。そこで、印章・署名に関して、その真正(真実であること)に対する一般人の信用を法的にも保護する必要がある。ただし印章偽造罪は、印章・署名が当該文書や有価証券の一部を構成することが多く、文書や有価証券そのものが偽造罪に問われる場合には、印章・署名の偽造などはこれに含まれる。したがって、本罪は、文書偽造罪や有価証券偽造罪が不成立に終わった場合と、印章・署名がそれ自体、独立に用いられる場合に問題となる。現行刑法では、これらの使用される対象が、天皇・日本国、公務員・公務所、私人のいずれであるかによって、本罪を大きく区別している。具体的には、(1)「御璽(ぎょじ)」(天皇の印章)、「国璽(こくじ)」(日本国の印章)、「御名(ぎょめい)」(天皇の署名)の偽造・不正使用罪、(2)公務所・公務員の印章・署名に関する公印偽造・不正使用罪、公務所の記号に関する公記号偽造・不正使用罪、(3)公務所以外の他人の印章・署名に関する私印偽造・不正使用罪がある(なお、これらには未遂罪がある)。
[名和鐵郎]
行使の目的をもって,(1)御璽,国璽,御名,(2)公務所・公務員の印章,署名,(3)公務所の記号,(4)他人の印章,署名を偽造する罪。その使用のほか,真正な印章や署名の不正使用も処罰される。刑は,(1)は2年以上の有期懲役,(2)は3ヵ月以上5年以下の懲役,(3)(4)は3年以下の懲役(刑法164~168条)。印章には印影のほか印形を含み,署名は自署のほか印刷,タイプ等による記名をも含むというのが判例である。印章,署名の真正に対する公共の信用を保護するものであるが,印章や署名の偽造が独立して行われることはあまりなく,文書偽造の手段であることが多い。本罪は文書偽造罪の未遂犯としての性格を有し,順次両者が行われたときは文書偽造罪のみが成立する。
執筆者:西田 典之
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