行使の目的,すなわち真正な有価証券として使用する目的で,有価証券を偽造・変造し,もしくは虚偽の記入を為す罪(刑法162条1項,2項),および,広義では,偽造・変造・虚偽記入の有価証券を行使し,または行使の目的をもってこれを人に交付しもしくは輸入する罪(偽造有価証券行使・交付・輸入罪。163条1項)。刑はいずれも3ヵ月以上10年以下の懲役。行使罪等は未遂も処罰される(163条2項。なお,輸入・同予備・同未遂につき,関税定率法21条1項3号,関税法109条も,5年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金,またはその併科を定める)。国外犯も処罰される(刑法2条6号)。有価証券とは,私法上の財産権を化体した証券で,その権利の行使・移転に証券の占有を要するものをいう。化体された財産権の種類・証券の方式や形式等を問わない。162条1項にいう公債証書,官府の証券(大蔵省証券,郵便為替証書等),会社の株券などは例示的列挙である。商法上のものと異なり,流通性は必要でなく,鉄道乗車券,定期券,宝くじ等も刑法上の有価証券である反面,郵便貯金通帳,無記名定期預金証書等は,権利行使に証券の占有を必要としないため,刑法上は有価証券とされない。切手・印紙は,私法上の財産権を化体するものではないので,刑法上の有価証券ではない。ただし,郵便法84条以下,印紙犯罪処罰法,印紙等模造取締法が適用される。外国でのみ使用される有価証券も,刑法上のそれから除外されるが,日本の官府発行の証券については〈外国ニ於テ流通スル貨幣紙幣銀行券証券偽造変造及模造ニ関スル法律〉がある。
このように見てくると,私法上の有価証券よりも,通貨偽造罪にいう通貨に近いのが,有価証券偽造罪にいう有価証券ということになり,両罪の近似性が明らかになる。偽造とは,作成権なき者が他人名義を冒用して一般人をして真正なものと誤信するに足る外観・形式等の有価証券を作成すること,虚偽記入とは,作成権者が真実に反する記載をなすことをいうが,判例は,偽造を手形振出し等の基本的証券行為としてなす場合に限定し,裏書・引受け等の他の意思表示を他人名義を冒用して行う場合をも虚偽記入とする。偽造の程度に至らない模造は国債証券・地方債証券の場合に通貨及証券模造取締法で処罰される。変造とは,真正に成立した有価証券に権限なく変更を加えることである。行使とは,本来的あるいは付随的用法に従って使用することであり,偽造通貨行使罪の場合と異なり流通に置く必要はない。見せ手形として閲覧に供することも行使にあたる。
執筆者:伊東 研祐
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行使の目的をもって有価証券を偽造・変造・虚偽記入したり(刑法162条)、これら偽造等の有価証券を行使し、または行使の目的で交付し、もしくは輸入する罪(同法163条)。有価証券が今日の経済取引の手段として、通貨に類する重要な機能を有しているところから、本罪により有価証券に対する公共の信用(社会法益の一種)を強く保護している。「有価証券」とは財産権を表章する文書をいうが、刑法第162条1項によれば「公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券」と規定されている。これに表章される権利は物権、債権、その他の財産権であるが、この権利を行使または処分するために、その証券を占有することを要するものに限られる。前記のその他の有価証券は、手形、小切手、商品券のほか、乗り物の乗車券・定期券、宝くじなど流通性のないものでもよい(なお、郵便切手、収入印紙については特別法があるので除かれる)。
罰則は両条とも3月以上10年以下の懲役であり、第163条の罪は未遂も処罰される(同条2項)。
[名和鐵郎]
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