化学パルプ(読み)かがくぱるぷ(英語表記)chemical pulp

日本大百科全書(ニッポニカ) 「化学パルプ」の意味・わかりやすい解説

化学パルプ
かがくぱるぷ
chemical pulp

広義には木材または竹、藁(わら)、麻などの非木材の繊維原料を化学的に処理して製造したパルプ略称CP。日本では化学パルプの99%以上が木材から製造されるため、狭義には木材の化学パルプをさす。

 パルプの製造に際し、繊維原料中のリグニンなど非セルロース分の溶出に適した蒸解(煮てパルプ化すること)薬液で140~190℃で処理することにより、セルロースは単繊維状のパルプとして取り出せる。蒸解薬液の組成はパルプの製法により異なり、水酸化ナトリウム、硫化ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムなどが用いられ、また製法により、得られるパルプも、セルロース、リグニンおよびヘミセルロースなどの含有量と諸強度を異にする。

 現在、化学パルプの生産量は他のパルプに比べ圧倒的に多い。化学パルプのなかではクラフトパルプがほとんどで、少量の亜硫酸パルプアルカリパルプが一部で生産される。未晒(みさらし)の化学パルプは、アルカリおよび塩素系の薬品を用いて純白に漂白することも、リグニンがまったくなくなるまで精製することも可能である。

 化学パルプは機械パルプに比べるときわめて純度が高く、またはるかに強度が大きいため、未晒パルプは包装用紙の原料に、半晒パルプは新聞用紙製造の際、主原料となる木材パルプの補強用に、晒パルプは上・中質印刷用紙などの主原料として用いられ、またとくに精製された晒亜硫酸パルプは溶解用パルプとして人絹、スフステープルファイバー)およびカルボキシメチルセルロース(CMC、化学糊(のり))などの原料として用いられる。非木材パルプは手漉(す)きおよび機械抄(す)き和紙など特殊高級紙原料として用いられる。

 世界にはいまだ利用されずに捨てられている莫大(ばくだい)な量の稲藁・麦藁がある。20世紀の後半に、中国は紙パルプを大増産するため、零細な藁パルプ工場を全国各地につくり、そこに従来貯蔵や輸送が困難とされてきた稲藁・麦藁等を原料として少量ずつ運び込み、廃液処理技術の開発を十分に行わないまま、パルプの製造を強行した。そして1997年には世界の非木材パルプの総生産量約1930万トンの大半を中国が生産し、世界最大の非木材パルプ生産国を誇った。しかし、21世紀になり地球環境問題が厳しさを増し、各国も国内外の反対運動と戦って産業振興することができなくなってきた。そして2012年には、中国の藁パルプの生産量も591万2000トンに激減していることが国連統計で判明した。しかし、稲藁・麦藁等は莫大かつ有効な未利用資源であることには間違いない。足をしっかり地につけ、原料の輸送貯蔵技術、パルプ化技術そして環境技術の研究開発に取り組めば、困難はあっても復活は決して不可能なことではない。

[御田昭雄 2016年4月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「化学パルプ」の意味・わかりやすい解説

化学パルプ
かがくパルプ
chemical pulp

略称 CP。おもに木材を化学的に処理することによって得られる繊維物質。紙,レーヨン,セロハンなどの主原料となる。製法により,亜硫酸パルプクラフトパルプ,ソーダパルプ,セミケミカルパルプに分れる。

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