原子力施設で重大な事故が発生し、放射性物質が施設外へ漏れ出る、炉心冷却・核反応制御ができなくなるといった緊急な対応が求められる状態のこと。日本では1999年(平成11)に起きた茨城県東海村の核燃料加工会社の臨界事故を受け、原子力災害特別措置法が定められ、同法第15条に原子力緊急事態が規定された。具体的には(1)原子力事業所の境界付近で毎時500マイクロシーベルト以上の空間放射線量を検出した、(2)排気筒などの通常放出場所、管理区域以外の場所、輸送容器から1メートル離れた地点でそれぞれ通常の100倍の数値を検出した、(3)核分裂が連鎖的に起こる臨界事故が発生した、(4)原子炉運転中に原子炉冷却材が喪失し、すべての非常用炉心冷却装置の作動に失敗した、以上(1)から(4)のいずれか一つに該当する場合が原子力緊急事態にあたると定めている。原子力緊急事態に陥ると、内閣総理大臣は原子力災害対策特別措置法第15条に基づいて原子力緊急事態宣言を発令し、内閣府に内閣総理大臣を本部長とする原子力災害対策本部、現地に原子力災害現地対策本部をそれぞれ設置する。また緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)に原子力災害合同対策協議会を設け、政府と自治体、原子力事業者が連携しながら事故の応急対策、収束策、避難区域の設定と避難指示、農産物の出荷制限などを協議する。応急対策が必要なくなれば、原子力緊急事態の解除を宣言する。
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震で発生した東京電力福島第一原子力発電所事故で、日本は初めて原子力緊急事態に陥った。この事故の際、内閣総理大臣菅直人(かんなおと)が原子力緊急事態宣言を出したのは事故発生の通報から2時間以上が経過した後であった。国会事故調査委員会などの報告では原子力緊急事態宣言の発令が遅れたため、周辺住民への事故の周知が遅れたと指摘している。この反省から、原子力規制委員会は原子力緊急事態を原子炉の状態に応じて「警戒事態」「施設敷地緊急事態」「全面緊急事態」の3段階に分け、放射性物質が漏れ出る前でも避難指示ができるなど、きめ細かな初期対応ができる仕組みへの変更を検討している。なおアメリカの原子力規制委員会(NRC)は原子力緊急事態を深刻度に応じて4段階に分けている。
[編集部]
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