霊長目原猿亜目Prosimiiに属する哺乳類の総称。現生の原猿類は,ツパイTupaiidae,メガネザルTarsiidae,ロリスLorisidae,キツネザルLemuridae,インドリIndriidae,アイアイDaubentoniidaeの6科からなり,21属46種が知られている。いずれも旧大陸低緯度地帯の多雨林や疎開林,サバンナなどに生息する樹上生活者である。キツネザル,インドリ,アイアイの3科は,マダガスカルとその周辺の島々にだけ分布し,ツパイはインド,ミャンマー,中国南部,インドシナ半島,東南アジアの島々に,メガネザルはスマトラ,ボルネオ,セレベス,フィリピンに,ロリス科のうちガラゴGalago,ポットーPerodicticus,アンワンティボArctocebusはアフリカに,ほかは東南アジア,インド,スリランカに分布している。
原猿類は,第三紀暁新世中期に北アメリカに現れ,次いで始新世にはヨーロッパに分布を広げた。現生のものはこの始新世の化石と類縁関係があるといわれている。かぎづめ,突出した鼻口部,マーキング行動など,霊長類以外の哺乳類と共通の原始的な諸特徴を備えているが,一方で,四肢の指のいくつかには平づめが認められ,親指と他の指を向きあわせること(拇指(ぼし)対向)が可能であり,立体視が可能であり,閉じた眼輪をもつなど,真猿類と共通の特徴をも保有している。アバヒAvahi,アイアイ,キツネザルは1産1子だが,1産2~3子の例も少なくない。妊娠期間もツパイのわずか40日をはじめとして真猿類より短く,ツパイ,キツネザルのように未発達の子どもを出産するものもある。月経は見られない。交尾期,出産期の決まった種が多く,ふつう年1回,赤道直下では年2回の例が知られており,出産期は乾季の終りに訪れる。歯式は,ツパイが,メガネザルが,ロリスとキツネザルが,イタチキツネザルは,インドリが,アイアイはである。
原猿類の半分以上は夜行性で,夜行性のものは一般に雑食性であり単独生活を送る。ツパイ,キツネザル属Lemur,インドリなどの8属22種は昼行性で,多くは植物食で集団生活を営むが,集団サイズは小さく一般に10頭にみたない。夜行性の原猿類には,何日にもわたって利用する巣をつくったり(ガラゴ,アイアイ),木の洞を利用して日中は休眠をとる種(ロリス)が多いが,昼行性の原猿類は一般に巣をもたず,遊動生活を行う。
原猿類の多くは,体の一部に皮脂腺をもち(ツパイ,シファカは首部,キツネザルは前腕部,鼠径(そけい)部,外陰部など),これを木の枝などにこすりつけてマーキング行動を行う。ガラゴ,ネズミキツネザル,コビトキツネザルなどは皮脂腺をもたないが,自分の糞尿を木などにこすりつけてこれを行う。この行動はなわばりの防衛などに用いられるが,ワオキツネザルでは雄どうしの優位の誇示にも用いられる。原猿類の嗅覚(きゆうかく)への依存を示す行動で,真猿類では数種に見られるにすぎない。
→霊長類
執筆者:増井 憲一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱霊長目原猿亜目に属する動物の総称。動物界でもっとも進化を遂げた霊長目が、本亜目Prosimiiのように原始的特性を残すグループを内包していることは注目に値する。キツネザル、ロリス、メガネザルの3下目5科20属40余種からなる。第三紀暁新世中期に北アメリカ大陸に姿を現し、始新世には旧大陸西部にも分布を広げ繁栄した。現生の原猿類は、始新世の原猿と類似の諸形質をとどめている。その歯数は、最少がアイアイの18本、ついでインドリの30本であるが、原始的な哺乳類の基本型44本よりはいずれも少ない。体の大きさは、ネズミほどのコビトキツネザルから、最大は頭胴長70センチメートルのインドリまである。一般に小形のものは夜行性、雑食、単独生活者であり、大形のキツネザル、インドリ、シファカの3属の種は昼行性で集団生活を営む。東南アジア、インド、アフリカ、マダガスカル島の、主として熱帯多雨林に分布し、すべて樹上生活者である。
[伊谷純一郎]
…ヒトにもっとも近縁な動物で,ヒトとともに哺乳綱霊長目をなす。もともとニホンザルを指すことばであったが,現在ではヒト以外の霊長類の総称として用いられ,狭義には,真猿類のオマキザル科とオナガザル科の種を指す。英語では,尾の長いサルをmonkey,尾のないサルをape,原猿類をlemur,またはprosimianといっている。 いわゆるサルということばから連想するイメージは,賢そうな顔つきや目つきをもち,木登りがうまく,手先が器用で,果実や木の実を好み,群れをなして森の中でくらしている動物といったものであろう。…
…プルガトリウスPurgatoriusとよばれる化石で,下顎大臼歯の後部(タロニド)は低く幅広くなっていて,上顎大臼歯の突起とかみ合わせて,食物を切断するよりも圧しつぶす構造になっている。この特徴は,その後の原猿類化石ではごくふつうのもので,食虫類的というよりも霊長類のカテゴリーに含まれるものである。この形態を果実食への適応と考える人もいる。…
※「原猿類」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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