霊長目キツネザル下目アイアイ科の原猿で,1科1属1種のきわめて珍しい動物である。マダガスカル島の東部と北西部の熱帯降雨林に生息し,完全な夜行性の単独行動者である。日中は枝をからみ合わせてつくったわん状の大きな巣の中で寝ている。昆虫の幼虫が主要な食物で,果実も食べる。出産は年1回で1産1子である。体の大きさはネコ程度で,頭胴長が40cm,尾は60cmほどある。体色は黒っぽいが,顔から胸,腹にかけて黄色みを帯びた白毛で覆われている。顔は丸く,長いのみ状の前歯のために口唇部はとがって見える。耳は大きくて角ばっており毛が少ない。アイアイのなによりもの特徴は異様な形をした指である。前肢の第3,4指が長く,とくに第3指は長いだけでなく他の指に比べてきわだって細い。このことからユビザルとも呼ばれてきた。この細長い指で,ちょうど医者が患者の胸を打診するように木をたたいて,内部に巣くっている虫を探知する。そして第3指の鋭いつめを差し込んで虫をつぶし,それを引き出して食べる。アイアイはきわめて珍しい哺乳類の一つと考えられているが,残念なことに生活環境の人為的な破壊が進んでいるために,いまや絶滅の危機にさらされている。
執筆者:北村 光二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱霊長目アイアイ科の動物。別名ユビザルともいう原猿で、1科1属1種。マダガスカル島の固有種で、北東部および北西部の多雨林に分布する。頭胴長約40センチメートル、尾長50~60センチメートル。短い毛と長い剛毛が混生し、暗褐色ないし黒色で、顔の一部と胸は白っぽい。尾はふさふさとしており、目と耳介は大きい。鼻口部が特異でリスのように突出し、歯式は
で18本。門歯は上下とも1対しかないがよく発達し、一生伸び続ける。指は長く、後肢の第1指はやや対向性を示して平(ひら)づめがあるが、ほかの指にはすべて鉤(かぎ)づめがある。おもに果実と昆虫の幼虫を食べる。前肢の第3指はとくに細長くしなやかで、樹皮下の穴にすむ昆虫の幼虫を探り出すのに役だつ。幼虫をみつけると、門歯で樹皮をはがし、この指を差し入れてかき回す。こうして幼虫をつぶし、繰り返し指につけてすばやく口に運ぶ。ココヤシの果肉も同じようにして食べる。1産1子で、出産期は10~11月。単独生活者で完全な夜行性。高い樹上の木のまたに直径約50センチメートルの球形の巣をつくり、昼間はその中で眠る。かつては同島東部と西部の海岸域に広く分布したが、森林伐採などにより激減した。1966年から北東部の小島に設けられた特別保護区で、増殖が計画されている。
[上原重男]
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