原発性免疫不全症候群

内科学 第10版の解説

原発性免疫不全症候群(免疫不全症)

定義・概念
 原発性免疫不全症(primary immunodeficiency)は,ヒトの免疫系に発現する遺伝子の先天異常が原因で発症する.大きく8群に大別され,頻度の高い重要な疾患が約30種ある.細菌やウイルスに対する免疫能が低下する易感染性を中心症状とし,免疫調節機能の異常による自己免疫疾患・アレルギー,免疫学的監視機構の障害などによる発癌がみられる.健常人では感染症を引き起こさない弱毒病原体が引き起こす日和見感染症は免疫不全症の特徴である.150個以上の原因遺伝子が同定され,その確定診断には遺伝子解析が重要である.
分類
 世界保健機関(WHO)の専門委員会の提唱により8群の原発性免疫不全症に分類される(表10-35-1).
病因
 免疫系に発現する遺伝子の先天異常により発症する.主要な原因遺伝子を表10-35-1括弧内に示す.
疫学
 発症頻度は統計により異なるが出生10万人あたり1〜10人と考えられる.日本では,無ガンマグロブリン血症と分類不能型免疫不全症を含む抗体産生不全症の頻度が全体の40〜50%と高く,慢性肉芽腫症を含む好中球異常症,重症複合型免疫不全症を含むT細胞とB細胞両者の免疫不全症の発症頻度がそれぞれ全体の10%以上を占め,ついで高IgE症候群が5%程度と比較的頻度が高い.発症頻度が1%以下の疾患が多数存在する.
病態生理
 易感染性はさまざまなメカニズムで発症し,抗体欠乏症ではオプソニン化の障害により,好中球異常症では殺菌能の障害により細菌感染症を発症する.代表的な日和見感染症であるニューモシスチス肺炎は,T細胞の機能異常を有する重症複合免疫不全症,CD40L-CD40異常症,Wiskott-Aldrich症候群,慢性肉芽腫症でみられる.自己免疫疾患・アレルギーは制御性T細胞の異常で発症することがあり,発癌には,クラススイッチ・二重鎖切断修復の異常などが関与する.
検査
 感染症の起炎病原体の同定は診断に重要で,細菌感染症を反復罹患する症例では,好中球減少・抗体欠乏・補体欠損の有無などを検討する.好中球数減少症があるときは,二次性の好中球減少症を否定するために,薬剤性,自己免疫性(抗好中球抗体,ANA,C3/C4,RF,ANCA,Coombs)の可能性を検討し,二次性の好中球減少症が否定できれば骨髄穿刺を行う.抗体欠乏症の場合は,二次性の薬剤性,悪性腫瘍,腎・消化管から喪失の可能性を検討し,3歳以上であれば破傷風や肺炎球菌ワクチンに対する反応性を検討する.これで異常がみられなければIgGサブクラス欠損症の可能性を考慮する.CH50より補体欠損症が疑われるときは,補体の各因子を定量し,血管浮腫がある場合は,C1インヒビター,発作時C4を検討する.これらに異常がない場合は好中球の機能異常症を疑い,好中球の貪食能,遊走能,活性酸素産生能(NBT色素還元テスト,化学発光法,フローサイトメトリー法),細胞表面CD11/CD18,sLeX発現,酵素活性(MPO,G6PDなど)を評価する.
 日和見感染症を呈する場合は,血算(リンパ球・好中球・好酸球の絶対数,血小板数と容積),IgG,IgA,IgM,リンパ球サブセット,リンパ球の増殖反応の検討に加えて,HIV感染の可能性を考慮する.日和見感染症を呈する疾患の代表である重症複合免疫不全症は緊急の治療が必要であるので,これが否定されるまでは迅速に診断を進める.
診断
 まず原発性免疫不全症が存在するか否かを診断する.免疫不全症を疑うべき症状としては①反復する細菌感染症:1年間で8回以上の中耳炎または,2回以上の副鼻腔炎・肺炎,皮膚や腹腔内臓器の膿瘍・蜂窩織炎・髄膜炎・骨髄炎・敗血症,②日和見感染症:ニューモシスチス肺炎,1歳以降の難治性カンジダ症,BCGによる重症副反応,サイトメガロウイルス感染症など,③原発性免疫不全症に特徴的な感染症:細胞内寄生細菌(マイコバクテリア・サルモネラ)による感染症,単純ヘルペス脳炎,髄膜炎菌による髄膜炎,劇症型EBウイルス感染症などが重要である.また,感染症に関連した家族歴は本症診断の契機となることが多い.易感染性以外にも,自己免疫疾患やアレルギーなど免疫調節の障害にも注意を払う必要がある.起炎病原体に応じた検査を行い診断する.
経過・予後
 重症の免疫不全症では造血幹細胞移植による免疫能再建を行わないと,生後1〜2年で死亡することがある.抗体欠乏症では慢性気道感染のため肺機能障害が徐々に進行し,定期的な呼吸機能検査が必要である.
治療・予防
 原発性免疫不全症では感染症が重症化するため,病原微生物を迅速に同定し,早期に適切な薬剤が必要である.抗菌薬の予防内服が行われることがある.予防接種は細胞性免疫不全症では禁忌であり,不活化ワクチンも液性免疫不全症では無効なことが多い.
1)免疫グロブリン補充療法:
無ガンマグロブリン血症などに対して,免疫グロブリン製剤の補充療法が行われる.一般には3〜4週間ごとに200〜600 mg/kgを投与する.その際に症例ごとに投与前IgG値(トラフレベル)を呼吸機能が低下しない十分な値(>500 mg/dL)に設定する.
2)造血幹細胞移植:
重症複合免疫不全症,Wiskott-Aldrich症候群,CD40L-CD40欠損症,T細胞性免疫不全症などが適応となる.重症複合免疫不全症では,前処置が不要であるが,それ以外では前処置が必要である.同胞にドナーがいない場合には家族からのT細胞除去骨髄移植,非血縁者間骨髄移植,臍帯血移植などさまざまなドナーを用いた移植が行われる.
3)サイトカイン療法:
一部の重症複合免疫不全症にインターロイキン2(IL-2)が有効で,IFN-γが慢性肉芽腫症や一部の細胞内寄生菌に有効である.
4)遺伝子治療:
ADA欠損症やγc欠損症では,遺伝子治療が行われる.おもに造血幹細胞にレトロ/レンチウイルスを用いて欠損遺伝子を導入する.[峯岸克行]
■文献
Notarangelo LD, Fischer A, et al: Primary immunodeficiencies: 2009 update. J Allergy Clin Immunol, 124: 1161-1178, 2009.
Ochs HD, Smith CIE, et al: Primary Immunodeficiency Diseases, 2nd ed, Oxford University Press, New York, 2007.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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