改訂新版 世界大百科事典 「参詣曼荼羅」の意味・わかりやすい解説
参詣曼荼羅 (さんけいまんだら)
伊勢や熊野のような神社・仏閣に参詣するようすを描いた宗教画。室町後期から近世にかけて,布教のための絵解き用に制作された。那智参詣曼荼羅,伊勢参宮曼荼羅,多賀曼荼羅,富士曼荼羅,高野山曼荼羅,八坂法輪寺曼荼羅などと個々の名称は異なるが,参詣曼荼羅と総称される。共通する特徴は,(1)上方の左右に日輪,月輪を置いて霊地であることを示す,(2)重要な社殿,仏堂をはじめ鳥居,回廊まで克明に配す,(3)参道には信者が名所を参詣する姿を描く,などがあげられる。日月を配した社景である点は前代の宮曼荼羅のような宗教画であるが,社寺の名所を縁起のように描く点は,やはり前代の社寺縁起絵の流れもくむ。また,参詣者の姿をリアルにとらえる点は近世風俗画のはしりとも見られ,全体としては礼拝画と世俗画の二重の性格をもつ。これは,この曼荼羅が庶民に対する布教の目的で考案されたためで,描写される対象が多いのも,絵解きされることが最初から想定されているからである。遺品の中には,のれんをかけるような乳(ち)を有するものや,折りたたんだ痕跡のあるものがある。これは,社寺の宿坊に付属した聖(ひじり),御師(おし),巫女が各地に布教する際,携帯して絵解きしたことを物語る。
→垂迹美術
執筆者:川村 知行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報