反・返・帰・覆(読み)かえす

精選版 日本国語大辞典 「反・返・帰・覆」の意味・読み・例文・類語

かえ・す かへす【反・返・帰・覆】

〘他サ五(四)〙
[一] (反・返) 事物事柄の位置を逆にする。また、物事状態を変える。
① ひるがえして裏を表側に出す。裏がえす。
万葉(8C後)一七・三九七八「しきたへの 袖可敝之(カヘシ)つつ 寝(ぬ)る夜落ちず 夢には見れど」
源氏(1001‐14頃)花宴「のどかに袖かへすところを、ひとをれ、けしきばかり舞ひ給へるに」
② ひっくりかえして上下を逆さまにする。また、横に倒す。くつがえす。
※大和(947‐957頃)八三「おもふ人雨と降りくるものならばわがもる床はかへさざらまし」
平家(13C前)一一「屏風をかへす様に馬はどうど倒るれば」
③ (掘って下にあった土を上に出すようにするところから) すきなどを使って田畑の土を柔らかくする。耕す。
※新撰字鏡(898‐901頃)「耕 加戸須」
古今(905‐914)恋五・八一七「あらを田をあらすきかへしかへしても人の心を見てこそやまめ〈よみ人しらず〉」
④ ある色に染まっているものを、他の色に染める。染めかえす。
※平家(13C前)九「小桜を黄にかへいたる鎧きて」
⑤ 神楽歌、催馬楽などで、呂(りょ)、律などの調子を変えてうたう。
※袖中抄(1185‐87頃)六「かへすとは催馬楽拍子に吹なしひきなして、あさくらをうたふなるべし」
⑥ 反切(はんせつ)によって漢字の音を示す。
※和英語林集成(初版)(1867)「モジヲ kayesz(カエス)
[二] 人、物をもと場所に移したり、物事を再びもとの状態にしたりする。
① もとの場所に行かせる。帰らせる。
※万葉(8C後)一一・二五四五「誰(た)そ彼と問はば答へむすべを無み君が使を還(かへし)つるかも」
※平家(13C前)九「いそぎ物の具して、人をばかへし給ひけり」
② もとの持ち主に移す。返却する。返済する。
※蘇悉地羯羅経略疏寛平八年点(896)七「価(あたひ)を讎(カヘサ)ずして取ることを明す」
※竹取(9C末‐10C初)「使にそへて金をばかへし奉らん」
③ もとの状態になるようにする。
※平家(13C前)七「時俗を堯年の昔にかへさん」
④ 返事、返答をする。相手のことばや挨拶などに応答する。
※足利本論語抄(16C)陽貨第十七「人が譏れば此詩を歌て譏りかゑしつする也」
返歌をする。
※大和(947‐957頃)九「『あらばこそはじめもはてもおもほえめ今日にもあはで消えにしものを』となむかへし給ける」
⑥ 自分に対してした他人の行ないに報いる。返礼返杯、または仕返しをする。
随筆・還魂紙料(1826)下「掛(かけ)られたる処より又此方へ来て踊をかへすといふ」
⑦ 今までついていた官職をやめる。辞する。
※源氏(1001‐14頃)澪標「やまひによりて位をかへし奉りてしを」
⑧ 一度、のどを通った食物を、口から出す。はく。もどす。
※栄花(1028‐92頃)楚王の夢「よろづにかかへて御湯参らせ給へば、かへしてきこしめさず」
近世邦楽で、反復することをいう。
⑩ (自動詞のように用いて) もどる。ひきかえして敵に向かう。
※平家(13C前)七「『きたなしや、かへせかへせ』といふやから多かりけれ共」
[補注]「もどす」が場所や状態の変化したものをもとどおりにすることを表わすのに対して、「かえす」はむしろ逆の方向に変化させることを表わす。

かや・る【反・返・帰・覆】

〘自ラ四〙 (「かえる(反)」の変化した語)
① もとの所へもどる。
※あさぢが露(13C後)「日もくれぬればかやり給はんとするに」
② ひっくりかえる。
※俳諧師(1908)〈高浜虚子〉二五「『奥さん雑巾は?』と三蔵は覆(カヤ)った糊皿を見て心配さうに細君の顔を見る」

かや・す【反・返・帰・覆】

〘他サ四〙 (動詞「かえす(反)」の変化した語)
① もとの場所、状態にもどす。前にもっていた人にもどす。
※九冊本宝物集(1179頃)八「汝かへりてかやさんとて、多く人の物をかりたり」
② 裏を表に出す。ひるがえす。
※娵入記(1443‐73頃)「縫ひやう、ふせ縫也。すそをかやして縫べからず」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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