三蔵(読み)サンゾウ

デジタル大辞泉 「三蔵」の意味・読み・例文・類語

さん‐ぞう〔‐ザウ〕【三蔵】

上代朝廷の官物を納めた三つの蔵。斎蔵いみくら内蔵うちくら大蔵おおくら
仏教聖典を3種に分類したもの。経蔵律蔵論蔵
仏教の聖典に深く通じた高僧に対する敬称。また、聖典の翻訳者をもいう。真諦三蔵・玄奘げんじょう三蔵・法顕三蔵など。
天台宗で、小乗別称
仏語。菩薩ぼさつ声聞しょうもんのそれぞれの教え。また、声聞・縁覚えんがく菩薩の教え。三乗。
[類語]和尚上人大師阿闍梨猊下

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「三蔵」の意味・読み・例文・類語

さん‐ぞう‥ザウ【三蔵】

  1. 〘 名詞 〙
  2. [ 一 ] 大化前代、大和政権の所有に属する斎蔵(いみくら)・内蔵(うちつくら)・大蔵(おおくら)総称
  3. [ 二 ] 仏語。
    1. 仏教の聖典を三種に分類した、経蔵・律蔵・論蔵の総称。経蔵は仏の説法を集成し、律蔵は仏徒の戒律を集成し、論蔵は経典の注釈研究を集成したもの。
      1. [初出の実例]「五宗之学、三蔵之教、論討有異」(出典:続日本紀‐養老二年(718)一〇月庚午)
    2. [ 二 ]に深く通じた高僧に対する敬称。また、[ 二 ]の三蔵の翻訳者をもいう。真諦三蔵、玄奘(げんじょう)三蔵、法顕三蔵など。
      1. [初出の実例]「昔者日本霊仙三蔵於亭子、奉見一万菩薩、遍礼訖」(出典:入唐求法巡礼行記(838‐847)三)
    3. 天台宗で、小乗の別称。〔法華経‐安楽行品〕
    4. 仏と菩薩と声聞(しょうもん)のそれぞれの教え。また、声聞と縁覚と菩薩の教え。三乗。〔快馬鞭(1800)〕 〔釈氏要覧‐中〕
  4. [ 三 ] 鍛冶屋、船頭、馬方など身分の低い者の通称。
    1. [初出の実例]「三蔵やお夏迄もせどのかたすみ湯殿のかげにても以為(おもわく)をくどきて」(出典:仮名草子・都風俗鑑(1681)一)

みつ‐くら【三蔵】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 令制前、大王の所有に属する斎蔵(いみくら)・内蔵(うちつくら)・大蔵(おおくら)の総称。さんぞう。
  3. 一般に、屋敷内に蔵が三つあることをいう。また、転じて富家に生まれ育ったおぼこ娘をいう。
    1. [初出の実例]「お肌に添しあはれ摩胡の手 三つ蔵の内気ものさへ声を上」(出典:俳諧・西鶴大矢数(1681)第一三)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「三蔵」の意味・わかりやすい解説

三蔵(仏教聖典)
さんぞう

経・律・論を収めた仏教聖典。サンスクリットトリピタカtripiaka、パーリ語ティピタカtipiakaの訳。ピタカとは蔵あるいは籠(かご)の意で、ティピタカとは三つの籠のこと。すなわち、仏教の聖典には、仏陀(ぶっだ)(釈迦(しゃか))の説いた教法たる経と、出家の修行者の守るべき規矩(きく)たる律と、両者に対する注釈的研究たる論があり、この経律論の三つを収めたものという意味で、三蔵といえば、仏教聖典の総称のことである。伝説によれば、仏陀入滅の後、弟子たちが集まって三蔵を結集(けつじゅう)したといわれるが、論蔵の成立は明らかに後代のことであり、また経や律にしてもその成立には長い時間を要したものと考えられる。仏教の各部派はそれぞれ固有の三蔵を保持していたと思われるが、今日もっとも完全な形態で残っているのは、スリランカに伝わった上座部テーラワーダTheravādaのパーリ語三蔵である。また三蔵に通暁(つうぎょう)した学僧のことを三蔵法師といい、とくに玄奘(げんじょう)三蔵をさす。

[高橋 壯]

『前田恵学著『原始仏教聖典の成立史的研究』(1964・山喜房仏書林)』


三蔵(みつくら)
みつくら

大化前代の大和(やまと)政権における3種の財庫の総称。神物を納める斎蔵(いみくら)、大王家の財庫内蔵(うちくら)、政府の財庫大蔵(おおくら)の三蔵。『古語拾遺(こごしゅうい)』によれば神武(じんむ)朝に斎蔵を、履中(りちゅう)朝に内蔵を、雄略(ゆうりゃく)朝に大蔵を建てたというが、管理者としての内蔵・大蔵氏(いずれも直(あたい)姓)は実在するが、斎蔵氏は存在せず、したがって斎蔵の存在も証明しがたい。同書にはまた蘇我満智(そがのまち)をして三蔵を検校(けんぎょう)させたこと、満智は秦(はた)氏をして財物の出納を、東(やまと)・西文(かわちのふみ)氏をして帳簿の勘録を、秦・漢(あや)二氏をして内蔵・大蔵の鑰(かぎ)を、それぞれつかさどらしめたとあるが、この大化前代の財政機構の骨組みは、律令(りつりょう)制下の大蔵省・内蔵寮(くらりょう)の機構にそっくり引き継がれているから、おおよそ信用してよいと思われる。

[黛 弘道]


三蔵(みつのくら)
みつのくら

三蔵

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「三蔵」の意味・わかりやすい解説

三蔵 (さんぞう)

大和朝廷の財政をつかさどった官司またはクラとしての斎蔵(いみくら)・内蔵・大蔵の総称。《古語拾遺》によると,神武朝宮中に神物・官物を納める斎蔵を建て,斎(忌)部氏がこれを管掌し,履中朝,朝鮮三国からの貢納物がふえると斎蔵の近くに内蔵を設けて神物と官物を分収し,東漢(やまとのあや)氏の祖阿知使主(あちのおみ)と西文(かわちのあや)氏の祖王仁(わに)に出納を記録させ,また蔵部を定め,さらに雄略朝,諸国の貢調が増大すると大蔵を建て,蘇我麻智に三蔵を検校せしめ,秦氏を出納,東西文氏を記録にあたらせ,漢氏に内蔵・大蔵の姓を賜ったという。実際朝廷の財政官司としてのクラは大和・河内の各地に分置されたが,とくに内蔵・大蔵はそれぞれ王室・朝廷の主要財政官司となり,律令国家の中務省(なかつかさしよう)内蔵寮(くらりよう)・大蔵省の組織にうけつがれた。内蔵・大蔵名の氏(うじ)は実在するのに対し,斎蔵を氏名とするものは伝わらず,斎蔵と三蔵に関する伝承は,斎部氏独自の所伝とみなされる。
執筆者:


三蔵 (さんぞう)
Sān zàng

サンスクリットのtripiṭakaの漢訳で,仏教の聖典を経蔵・律蔵・論蔵の3種に分類したときの総称。蔵の原語であるpiṭakaとは,ものを入れる籠のこと。経蔵とは,仏陀の教説集で,ほとんどの場合〈如是我聞〉で始まる。律蔵とは,教団の実践規定集で,禁止的な徳目も多く含む。論蔵とは,経と律とくに経に対して施された注釈文献集。これら三蔵を網羅したものを〈一切経〉あるいは〈大蔵経〉と呼ぶ。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「三蔵」の意味・わかりやすい解説

三蔵(仏教)【さんぞう】

サンスクリット,トリ・ピタカの訳。トリは三,ピタカは容器の意。(1)大蔵経の中国での別称。経蔵・律蔵・論蔵の総称。(2)三蔵法師の略。大蔵経(三蔵)に精通した僧侶の意味で,中国では経典の翻訳に従事した僧を訳経三蔵ともいった。唐の玄奘(げんじょう)が最も著名なので,三蔵といえば玄奘をさすようになった。
→関連項目阿毘達磨結集三学仏教

三蔵(歴史)【さんぞう】

古語拾遺》の伝承が伝える大和朝廷の斎蔵(いみくら),内蔵(うちくら),大蔵(おおくら)のこと。初め神物などを納める斎蔵だけであったが,朝廷の発展に伴って,履中(りちゅう)朝に内蔵,雄略朝に大蔵が分立,これらを管理した蘇我氏が勢力を得たといわれる。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「三蔵」の解説

三蔵
さんぞう

「みつのくら」とも。「古語拾遺」にみえる,斎蔵(いみくら)・内蔵(うちつくら)・大蔵(おおくら)という大和朝廷の伝承上の三つの庫蔵。神物と官物が未分化な神武朝に斎蔵が,三韓からの貢納物が増加した履中朝に内蔵が,秦氏の調の納入を機に諸国からの貢納物が増加した雄略朝に大蔵が,それぞれたてられたとされる。これは6世紀頃に実際に神祇関係の物品を管理した斎(忌)部(いんべ)氏や,令制内蔵寮・大蔵省の前身の内蔵・大蔵で物品を管理していた渡来系氏族が述作した伝承にもとづくものであろう。


三蔵
みつのくら

三蔵(さんぞう)

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「三蔵」の解説

三蔵
みつくら

大和政権の財物を収納した斎蔵 (いみくら) ・内蔵 (うちくら) ・大蔵 (おおくら) の三つの倉庫をいう
「さんぞう」とも読む。斎蔵は神の貢租をおさめ斎部氏 (いんべうじ) が世襲管理した。内蔵は大王家の財物を収納し,東漢氏 (やまとのあやうじ) ・西文氏 (かわちのふみうじ) が事務をつかさどり,大蔵は政府の貢租をおさめ,秦氏 (はたうじ) が事務をつかさどった。ともに蘇我氏が統轄したという。

三蔵
さんぞう

みつくら

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「三蔵」の意味・わかりやすい解説

三蔵
さんぞう
tripiṭaka

「三種の籠」の意。転じて仏教の経典 (経蔵) ,戒律書 (律蔵) ,注釈書 (論蔵) は,仏教の意義を包蔵していることから三蔵と呼ばれる。また経,律,論の三蔵に通達している学僧を尊称して,名前のあとに三蔵をつけることがあった。たとえば,玄奘三蔵。 (→三蔵法師 )

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の三蔵の言及

【大蔵経】より

…仏教聖典を総集したもの。〈一切経(いつさいきよう)〉〈三蔵(さんぞう)〉とも呼ぶ。元来,〈大蔵経〉の呼称は漢訳の〈三蔵〉に若干の中国人の撰述書を加えたものを指したが,現在ではその他の国語によるものも広く総称する。…

【仏教美術】より

…第2,第3結集をへて,2世紀に至ってカニシカ王の外護のもとに有部論集が集成(第4結集)され,論蔵も整備される。これら経蔵,律蔵,論蔵を総称して三蔵という。仏教経典は,小乗系の南伝仏教と大乗系の北伝仏教によって伝播する。…

【仏典】より

…仏教徒の用いる聖典。国により宗派により多種多様であるが,基本的には経,律,論の〈三蔵〉にまとめられる。〈経蔵〉は釈迦の教説の集成で,〈法〉とも〈阿含(あごん)〉(聖なる伝承)ともいわれる。…

※「三蔵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android