経・律・論を収めた仏教聖典。サンスクリット語トリピタカtripiaka、パーリ語ティピタカtipiakaの訳。ピタカとは蔵あるいは籠(かご)の意で、ティピタカとは三つの籠のこと。すなわち、仏教の聖典には、仏陀(ぶっだ)(釈迦(しゃか))の説いた教法たる経と、出家の修行者の守るべき規矩(きく)たる律と、両者に対する注釈的研究たる論があり、この経律論の三つを収めたものという意味で、三蔵といえば、仏教聖典の総称のことである。伝説によれば、仏陀入滅の後、弟子たちが集まって三蔵を結集(けつじゅう)したといわれるが、論蔵の成立は明らかに後代のことであり、また経や律にしてもその成立には長い時間を要したものと考えられる。仏教の各部派はそれぞれ固有の三蔵を保持していたと思われるが、今日もっとも完全な形態で残っているのは、スリランカに伝わった上座部テーラワーダTheravādaのパーリ語三蔵である。また三蔵に通暁(つうぎょう)した学僧のことを三蔵法師といい、とくに玄奘(げんじょう)三蔵をさす。
[高橋 壯]
『前田恵学著『原始仏教聖典の成立史的研究』(1964・山喜房仏書林)』
大化前代の大和(やまと)政権における3種の財庫の総称。神物を納める斎蔵(いみくら)、大王家の財庫内蔵(うちくら)、政府の財庫大蔵(おおくら)の三蔵。『古語拾遺(こごしゅうい)』によれば神武(じんむ)朝に斎蔵を、履中(りちゅう)朝に内蔵を、雄略(ゆうりゃく)朝に大蔵を建てたというが、管理者としての内蔵・大蔵氏(いずれも直(あたい)姓)は実在するが、斎蔵氏は存在せず、したがって斎蔵の存在も証明しがたい。同書にはまた蘇我満智(そがのまち)をして三蔵を検校(けんぎょう)させたこと、満智は秦(はた)氏をして財物の出納を、東(やまと)・西文(かわちのふみ)氏をして帳簿の勘録を、秦・漢(あや)二氏をして内蔵・大蔵の鑰(かぎ)を、それぞれつかさどらしめたとあるが、この大化前代の財政機構の骨組みは、律令(りつりょう)制下の大蔵省・内蔵寮(くらりょう)の機構にそっくり引き継がれているから、おおよそ信用してよいと思われる。
[黛 弘道]
大和朝廷の財政をつかさどった官司またはクラとしての斎蔵(いみくら)・内蔵・大蔵の総称。《古語拾遺》によると,神武朝宮中に神物・官物を納める斎蔵を建て,斎(忌)部氏がこれを管掌し,履中朝,朝鮮三国からの貢納物がふえると斎蔵の近くに内蔵を設けて神物と官物を分収し,東漢(やまとのあや)氏の祖阿知使主(あちのおみ)と西文(かわちのあや)氏の祖王仁(わに)に出納を記録させ,また蔵部を定め,さらに雄略朝,諸国の貢調が増大すると大蔵を建て,蘇我麻智に三蔵を検校せしめ,秦氏を出納,東西文氏を記録にあたらせ,漢氏に内蔵・大蔵の姓を賜ったという。実際朝廷の財政官司としてのクラは大和・河内の各地に分置されたが,とくに内蔵・大蔵はそれぞれ王室・朝廷の主要財政官司となり,律令国家の中務省(なかつかさしよう)内蔵寮(くらりよう)・大蔵省の組織にうけつがれた。内蔵・大蔵名の氏(うじ)は実在するのに対し,斎蔵を氏名とするものは伝わらず,斎蔵と三蔵に関する伝承は,斎部氏独自の所伝とみなされる。
執筆者:八木 充
サンスクリットのtripiṭakaの漢訳で,仏教の聖典を経蔵・律蔵・論蔵の3種に分類したときの総称。蔵の原語であるpiṭakaとは,ものを入れる籠のこと。経蔵とは,仏陀の教説集で,ほとんどの場合〈如是我聞〉で始まる。律蔵とは,教団の実践規定集で,禁止的な徳目も多く含む。論蔵とは,経と律とくに経に対して施された注釈文献集。これら三蔵を網羅したものを〈一切経〉あるいは〈大蔵経〉と呼ぶ。
執筆者:礪波 護
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「みつのくら」とも。「古語拾遺」にみえる,斎蔵(いみくら)・内蔵(うちつくら)・大蔵(おおくら)という大和朝廷の伝承上の三つの庫蔵。神物と官物が未分化な神武朝に斎蔵が,三韓からの貢納物が増加した履中朝に内蔵が,秦氏の調の納入を機に諸国からの貢納物が増加した雄略朝に大蔵が,それぞれたてられたとされる。これは6世紀頃に実際に神祇関係の物品を管理した斎(忌)部(いんべ)氏や,令制内蔵寮・大蔵省の前身の内蔵・大蔵で物品を管理していた渡来系氏族が述作した伝承にもとづくものであろう。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…仏教聖典を総集したもの。〈一切経(いつさいきよう)〉〈三蔵(さんぞう)〉とも呼ぶ。元来,〈大蔵経〉の呼称は漢訳の〈三蔵〉に若干の中国人の撰述書を加えたものを指したが,現在ではその他の国語によるものも広く総称する。…
…第2,第3結集をへて,2世紀に至ってカニシカ王の外護のもとに有部論集が集成(第4結集)され,論蔵も整備される。これら経蔵,律蔵,論蔵を総称して三蔵という。仏教経典は,小乗系の南伝仏教と大乗系の北伝仏教によって伝播する。…
…仏教徒の用いる聖典。国により宗派により多種多様であるが,基本的には経,律,論の〈三蔵〉にまとめられる。〈経蔵〉は釈迦の教説の集成で,〈法〉とも〈阿含(あごん)〉(聖なる伝承)ともいわれる。…
※「三蔵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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